ガタゴトと女が歩く。
旅行者か、背格好に不釣り合いなトランクを手に引いて。
額にじっとりと汗を滲ませ、目元には微かに隈ができている。
彼方に聳える王城を目指す足取りは重い。

たっぷりと水気を含んだ空気が肌を撫ぜ、
人外めいたトランクを引く手が汗で蒸れる。
ホオズキのワイン瓶はとうの昔に空っぽ。
ウンディーネの加護なき地では、これでも貴重な容器だ。

烏蝉の鳴く声が聞こえる。
王城の石壁は逃げ水でぼやけているのか。
重苦しいため息と共に、麓の野に立ち止まる。
くしゃくしゃになった黒シャツをぱたと扇ぎながら。

私……我々は、これからメルンテーゼ全土を巻き込んだ一揆に加勢する。
あの人はいつも唐突に気まぐれな面倒を持ちかけてくる。それでこうなった。いいけどさ。
慣れぬ異世界、知る人間の顔を見る機会が訪れるとなると、どうしても快く感じるのは人の性だろうか。
その前に——

一揆を取り仕切る女……ルリアンナ。
そして目の前に立つ男……『剛拳の』ラルフに、

それにしても今日はじめじめとしている。