連れの男の記憶：

今日は何とか過ごせたと思ったら、宿で部屋を取って窓から身を乗り出した瞬間に
ゴツい虫に刺されて硬直して三階から落ち、明らかにヤバいところの骨を折って動かなくなった。

幸いにも窓は路地裏に面していて人目が無かったので、急いで外に出て回収し部屋に安置することができた。
不思議なことに、日を跨いだあたりでいつのまにか彼女の死体は消え、死の記憶をすっかり忘れた
元気な彼女が寝ぼけた目を擦っている。

彼女の故郷（本人は知らないようだが、残酷劇の世界グランギニョリアと呼ばれている）では
全ての住人がこうしたろくでもない事件が起こる日々を繰り返していると聞いた。
が、ここはグランギニョリアではない。僕らがある目的の為に遣わされた世界、メルンテーゼだ。
死んだらそれで終わりの世界では彼女は明らかな異物。
彼女も、周りも、ぶつかって磨り減らないように気を配ることが、今の僕の大事な役目の一つだ。

でも二人部屋で隣のベッドに死体を寝かせての就寝となるとなんだか落ち着かない。
胃がキリキリする。

遠くから声が聞こえてくる。

声はだんだん近づいてくる。

大きく膨らんだ風呂敷を背負い、服を土であちこち汚した人影が、大きくなってくる。

　そして二人の前で立ち止まった。

　おろちは、ふろしきを解くと、中から大きなカブとトウモロコシを引っ張りだした。

疲れてきたラルフが腰をさすりながら腕試しする城にて。
対峙する護衛の男とラルフ、見守る少女。その緊張感に割り込む男の声。

何事かと2人が見れば商人風の男。丸っこい頬を目いっぱいにもちあげ笑みを浮かべている。
ラルフが無言で首を振ると男は自らの額をぺちりと叩いて。

2人にも声をやや早口で紹介し終えると背を丸めて去ってゆく。宣伝して歩いているようだ。興味があれば戦いの後聞いてみるといいだろう。もっとも、妙にトラブルの臭いがするかもしれないが。