「親父の奴、何を考えてやがる。」
　ユリアは心底不服であった。
　“異世界からの精鋭”としてこのメルンテーゼの一揆に加勢を要請されたのは他でもない、国一番の魔導師として讃えられる父の方であった。その役目を、一人息子である自分に譲ると言うのである。
　史上最年少で宮廷魔導師への就任を果たしたという父は、今では女王陛下のもとその補佐として国政さえも担う多忙な身。国を離れられない事情はまあ理解できる。しかし自分が父の"代理”をする事は正直不愉快であったし、何よりいつしか超えねばならない存在である父の口から出た『もう老いた』などと言う弱気な言葉には、心のどこかでがっかりする気持ちもあった。
　しかしながらこれはユリアにとってチャンスでもある。この世界では知らぬ者などいるはずもなかった名家の家名も、どこへ行き何をしても『魔導師様の息子だから』と囁かれ続けた血筋も、これから行かねばならないその"異世界”の地ではもはや関係が無いのだ。
　家名を捨て、自身の腕をためすには、またと無い絶好の機会であるとユリアは気持ちを切り替えた。

　「心の準備はできたのカ？」
ニヤリと笑うその声に、ユリアは黙って頷いた。『メゾ』と名乗るその声の主は、人でも獣でもない。見知らぬ地より訪れたという異界の者は、ユリアの様子に満足げにケラケラと笑った。
　メゾの周囲を、光の紋様が浮遊する。その光景はユリアの世界の『魔法陣』の展開によく似ていたが、円と円をつないだような不思議な紋は今までに見た事がなかった。

　次の瞬間、光に包まれたと思えば今度は延々と続く闇の中。気づけば天地もわからない。浮上するような、あるいは落下して行くような不思議な感覚と共に、ただ成す術も無く、どこまでも、どこまでも沈んでゆく。

次に光が差した時、ユリアの視界に広がったのは——


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かつて世界の真理を追い求め　その手に光を宿した男の剣は、
顔も知らぬたった一人の愛する息子の手に渡り
剣を手にした子はやがて　旅先で交わした大切な"約束”を胸に
己の信ずる道を切り開き　その刃に金鷹の翼を宿したという。

二世代に渡って受け継がれたその剣は、
今また新たな持ち主のもとで
これからまさに始まろうとしている物語の扉を開けて
白紙のページの中へと落ちて行く。

—— 物語の語り手は 『　　　』。




ヾ(◉□◉)ノ　＜　たのしいよ　！！

道端をゆるりと移動する、大小二つの影。

盟友、と呼ばれた動物のようなそれは、ふわりと浮遊しながら
日の光に照らされ、きらきらと反射する全身金の鎧へと向き直る。

アニマは何かを伝えるように、金の鎧の頭上に乗る。

黙って何度か頷き、

いざ行こうぞ！妙なはりきりを見せ、道端を進行していく。

しばらく歩いていくと、その先にもう一つ人影が現れた。

後ろ姿だが、黒くて長い髪に比較的軽装、

そしてその腰には、蒼い剣がさげられているのがはっきりと見える。

金の鎧は、一人の剣士に突撃した。

唐突に駆けてきたかと思えば、唐突に道連れしようとする金の鎧。

あまりの突然のことにわけのわからない顔をする剣士に、

剣士がつっこむ間も、名を名乗ることもせずに話を進める金の鎧、

金の鎧の頭上に乗るアニマは表情一つ変えないが、

頭上で片肘をたてている。呆れているのだろうか。