「……うっへぇ……何これキモイ、ちょーきもい」

見渡す限りの人・人・ひと
普段の鬼なら美味そうな人間よりどりみどりでうはうは
…のはずなのだが

如何せん人が多すぎる。
ざっと見て千人は超えているであろう人ごみの中に鬼は紛れ込んでいた。

「来るんじゃなかった……帰ろうかなー」

ぶつぶつと愚痴を零しながらもしっかりと順番待ちをする鬼。
……意外と真面目である。

「帰るっつっても、帰る世界すらなかったわ俺ー。家なき子みたいなー？」

彼の居た世界は二つの国が領土を巡って戦争をしていた。
結果、二つの国は相打ちとなり滅亡。
戦争による実害のため、世界は汚れおおよそ人が住むべき所ではなくなってしまったのである。

まあ早い話どうでもいい事であるが。

あちらこちら放浪している折に入った情報。
─────メルンテーゼで近々大規模な一揆が行われるらしい

そんなわけで、鬼は面白半分、食糧確保を理由にこの世界に足を踏み入れたのだった。

「…それにしたって、一度に集めすぎじゃね？どんだけ皆して暇人なんだよ…」

自分の事を棚にあげてこれである。

≪…お前文句ばっかだな≫
<君も人の事言えてないのにねー、暇人だよねー>

「うっせーーなーーちくしょーーー。人ごみでムカついてる時に話かけんじゃねーーーよ。
何だよお前らうっぜえぞ。何なの俺、憑かれてんの？悪霊退散なの？
大体な、憑くんならもっと色気のあるねーちゃんとかないのかよ。ふざけんなよ」

背後にいる何かよくわからない兄弟にまくしたてる。

≪あ？そりゃこっちの台詞だっつの。何が悲しくてこんな妖怪にだな≫
<人の事幽霊みたいに言わないでよ、妖怪。僕たちはエンブリオっていう何だかよくわかんない何かなんだから>

「妖怪っつーなよ！！鳥人間共！！お前らもどっこいどっこいじゃねーーか！
しかも結局お前らもわかってねーーし！！」

律儀に突っ込みをするマメな鬼だった。

木の陰に隠れて見ていたようだが、目が合った瞬間慌てて飛び出てきた

じーと頭の上のほうを見つめている。

顔を真っ赤にしながら、慌てている様子がとても可愛い。

そう言うと走って行ってしまった。