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ここよりやや遠い、
気候の穏やかなとある地方に、貴族の一人娘がおりました。

彼女は両親の愛情を一身に受け、
何不自由無くすくすくと育ちます。

しかし、父親があまりにも溺愛(おやばか)したために、
彼女は世間知らずの箱入り娘に育っていきます。


…彼女が育つにつれて、世界情勢は変わりました。
新しい王が即位したのです。

これからの暮らしがより良い方へ変わることへ、
期待を膨らませていた民の心とは裏腹に、
ネクターを独占する新王により民の暮らしは日に日に悪くなっていきます。

エンブリオによって成り立っていた民の生活は徐々に苦しくなり、
貧困に喘ぐ民が増えていったのです。

ネクターの不足は、年々酷くなっていきました。
新王は民に目もくれず、
己の豪華絢爛な生活の維持のためにネクターを浪費し、独占していました。
そう——その姿は独裁者となっていたのです。


このままでは、国はおろか世界が崩壊しかねない……


それを危惧した彼女の両親は、
民の安定を図ろうと、四苦八苦しておりました。

それでも両親は、愛しい娘の前でそんな素振りは見せません。
娘に不安を与えまいとしていたのです。

——そんな、忙しそうな姿を見せない両親の姿もあってか、
娘はお城の中のお姫様。
暖かい籠の中の小さな鳥。

世の中の事も何も知らずに、幸せに育っていました。

娘の健やかな成長とは裏腹に、
両親の奔走を嘲笑うかのように、日に日に悪化する情勢。


——このままではやがて、この地も紛争に巻き込まれてしまうだろう——。


一度紛争が起きてしまえば、
この地の安全はおろか、自分達の生死の保証さえままならない…。
それはイコール、愛おしい我が娘の命をも脅かしかねないという事———。

それを危惧した両親は、日々頭を悩ませていました。
自分達よりも、娘に危害が及ぶようなことに、なってはならない………。


悩みに悩み、そしてとうとう一大決心をした母が口を開きました。

　

突如飛び出た母娘の会話に聞き耳を立てていた父は、一瞬時を(息も)止めて猛反発しました。

などと叫び、取り乱したのですが、その勢いでヅラだったことがバレて矛先が変わり。
見る見るうちに、父の旗色は悪くなっていきます。

そしてとうとう母に制され、
号泣しながらも、娘を送り出すことにしました………。


　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　 　　　オマケ
それはそんな、世間知らずなお嬢様と、従者のシロの物語。


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かなり砕けた口調で話しかけている。とはいえども、どうしてここにいるのかを純粋に気にしているような雰囲気だ。

城でルリアンヌとラルフの腕試しを待つ間。大きな鎌を構えたミルフィーユと従者に声をかけてくる者がいた。

人懐っこい笑顔。齢は30を越えた頃だろうか。褪せた緑色の帽子を被っている。

職業と名乗りを済ませると男はあっさり立ち去った。戦いの邪魔にならぬよう気遣ったようだ。興味があれば衛兵にでも名簿を確かめればすぐに判るだろう。