故郷から南下した地は大気が湿気を含み、やや蒸し暑い。
サラマンダーのいる鉱山内部とは違った感覚のあまり慣れない気候だ。
ここまでの道中で雨の日も続いたせいか、気分は優れなかった。


しかし、環境の変化に愚痴ばかり零しても仕方がない。
ここへは観光に来たわけではないのだ。
一刻も早く国王陛下に謁見し、ネクターの独占を取り下げてもらわねば。
そう思っていたもの、最早事態はそれどころではなくなっていたらしい。


王城前に殺到する人々はどうやらメルンテーゼの者だけではないようだった。
ルリアンナという女。この群集を短期間で集めた扇動者だという。
ネクターが不足し生活に窮している民が少なくない事は分かっていたが、
ここまで大々的な反乱を、異世界から人まで呼び込んで。
まるで王を落とさんばかりの勢いではないか。


疑念が過ぎる。が、ここで引き返すわけにはいかない。
フリントの民もまたネクターを必要としているのだ。
父上の代理とは言え、何も得られず帰還しては次期領主の名折れだ。
見える道が一つなら進む他はないだろう。


…
ところで先からオズワルドの姿が見えない。全く何処で油を売っているのやら。
ユージェニーの方も気がかりだ。
入隊の手続きが済み次第、探しにいくとしよう。

あなたが王城前を歩いていると、突然、目の前に眼鏡の女が立ちふさがる。
眼鏡の女はあなたの肩もとにあるブローチに顔を近づけ、
眼鏡を外したりかけたりして、瞳を輝かせている。

　

　

　

　

　

　

まくし立てるように質問攻めをしてくる女の後ろから、
今度は大きな樹が歩いてきた。

　

ごった返す王城前で、ヘクターの背中に人がぶつかる。

今にも突っかかられそうな瞬間、小さいながらも頭の中に響くような声が聞こえる。
ぶつかってきた男の足元の影から、遠慮気味に小さな人型…の頭半分が覗いてきて。

——木陰に転がっていたいきものがゆっくりと身体を持ち上げる。
偶然にも居合わせた縁を喜ぶ様子も、テリトリーに入られて不愉快である、という様子も見せずにただ、それはまっすぐ視線を投げてくる。

瞳をひとしきり見つめたあとは舐めるように身体全体を眺めながら、傍に座る。
ごつごつとした甲殻がぎちり、と鳴いた。

継がれる言葉の調子には威嚇の様子も悲哀の匂いもなかった。

——木陰に転がっていたいきものがゆっくりと身体を持ち上げる。
偶然にも居合わせた縁を喜ぶ様子も、テリトリーに入られて不愉快である、という様子も見せずにただ、それはまっすぐ視線を投げてくる。

瞳をひとしきり見つめたあとは舐めるように身体全体を眺めながら、傍に座る。
ごつごつとした甲殻がぎちり、と鳴いた。

継がれる言葉の調子には威嚇の様子も悲哀の匂いもなかった。

40cmほどの大きさの人形が自らの足で歩きながら近づいてくる。

姿勢を正して恭しく一礼。

人形が急に宙へと持ち上げられる。
つまみ上げたのは、身長は170前後、青髪の耳長。