妖魔の国の最も北に位置し、人間の国と隣接するボクの故郷であるユベール領は、四年前のシルグムント戦役で大きな戦禍に見舞われた。
最前線となったユベール領は、多くの兵と共に領主であるベルフェゴール公が討ち死に、そして多くの無辜の民が犠牲となった。

短期間の間に多くの死に見舞われたユベール領はかつてない強大な『穢れ』を蓄積した。
この『穢れ』というのは、ボク達妖魔特有の魂の循環の際に生まれる副産物のようなものだそうな。
大抵にして、死の瞬間本人の怨嗟の量に比例した大きさの『穢れ』が亡くなった地に染みて、残る。

この、土地に蓄積した『穢れ』を背負って百年に一度生まれるのがボク達『忌み子』だ。
背負わされた穢れと共に生き、命を蝕まれ、短い生を終える。

基本的に妖魔種というのは長命で、大体千年は生きるものらしいが『忌み子』は平均して百年くらいしか生きることが出来ないそうだ。
更に、妖魔の国史上最大の戦禍を経験し、かつてない量の妖魔の怨嗟を背負って生まれたボクの寿命は、このままでは三年がいいところらしい。
その代わり、『忌み子』は抱えた巨大な『穢れ』の量にともない強大な妖力を持って生まれる・・・。


妖魔の国史上かつてない量の『穢れ』を背負って、おまけに上級妖魔の家系に生まれたボクは、結果妖魔の国のトップである八公爵にも匹敵する
妖気を持ってしまったらしい。

おまけにそのあり余る妖気のせいなのか、生後半年でこれくらいの体格と精神に成長してしまった。
普通は十年以上かかるものらしい・・・。ボク本人としてはよくわからないのだけど。

そういうわけで妖魔の国でイレギュラー中のイレギュラーとして生まれてしまった僕は、存在を他領には伏せられた上、一つ大きな役目を背負わされてしまった。

二百年前に故国を裏切って逃げた八公爵の一角。サタナエル公爵の粛清命令。


ボクにしか出来ないらしい。

八公爵同士の戦闘は古い盟約の呪いで禁じられてる上、彼らと戦える妖魔はそうそういるものではないらしい。
もちろんそんな任務を生後半年のボクにやらせるなんて普通じゃないんだけど、どうしてもボクじゃなければいけないそうだ。
おまけにボクは寿命がこんなだ。早くやらせなければいけなかったんだろう。

お父さんお母さんには随分悲しい思いをさせてしまったけど、ボクはボクで外の世界で探してきたいものがあった。


体内に巣食った『穢れ』を祓う方法だ。
基本的には方法はないと言われているのだけど、外の世界には何かあるかもしれない。
それこそ僕ら妖魔と反目するタリスベル教なんかには、そういったものを祓う技術なんて如何にもありそうなものじゃないか。

僕の妖力はあくまで『穢れ』をソースとしたものだ。祓えば当然ボクはただの妖魔の力に戻るはず。
なので先に任務を遂行しなければならない。

といっても、常にこの妖気をダダ漏れにさせると刺客にならないということで行きがけに妖気封印のイヤリングをもらった。
これをしておくと、体内の妖気をほとんど封印できて、おまけに穢れの影響も少なくなって少しだけ寿命も延びるそうな。
任務遂行の時だけ外せと言われた。

任務は当然極秘中の極秘。
表沙汰には僕は放逐されたという扱いになり、家名も形式的にだけど、奪われた。


ユベールの山並みが少しずつ遠くなっていく。
ボクはもう一回故郷に帰ってこれるのかな。

前を向くと、広大なアルテリア平原が広がっている。地平の彼方に沈もうとしてる夕陽が僕の門出を祝福してくれてるようにも見えた。
ボクは産まれた時に領主様の娘に贈ってもらったという、宝剣セイレネス・アズーロを夕陽に翳す。

何せボクの人生はまだ始まって半年だ。何もかもがこれからなはずなんだ。

ふと気がつくと、あなたを見つめている人がいる。すると近づいてきて頭をポンと撫でる

目が一瞬鋭くなるが、また笑顔に戻る。