あれは嵐の日の事・・・。
外は雨が吹き荒れ、雷が鳴り響き、風が戸を叩く音で子供達も脅えていた。

「皆さん、寝ましょう
　今日一日平和に過ごせたことを神に感謝し・・・。」

「おやすみなさい、シスターマリア」

脅える子供達を落ち着かせ、漸く眠りにつかせ、私は一息入れることにした。

「はぁ・・・。」

一人、椅子に座り温めた牛乳を飲み、溜息を漏らす。

「神父様・・・結局帰ってきませんでした・・・。」

朝、神父様は出掛けてくると言ったまま、今も帰らず・・・。
外は嵐なので、きっと出掛け先で泊まってきているのでしょう。

そういえば一人になるのなんていつ以来だろうか・・・胸がざわつく・・・。
何か嫌な予感が・・・。

一際大きな音の雷が鳴り響く。
雨と風の音の中に微かに声が聞こえてくる。

「・・・・・・神父様？」

不安だけが募る。
嫌な気配・・・。

私は意を決して、微かに聞こえてきた声のする外へ出ることにした。




外へ出ると、誰かが倒れている。
慌てて駆け寄り、抱き起こすと手には雨とは違う、暖かいものが流れている。

「・・・っ！神父様！どうなさったのですか！？」
「マリ・・・アですか？」

周りを見渡すと、何かが去っていく気配があった。
きっと神父様を傷つけたやつだ。

「・・・許せないっ」
「・・・いけま・・・せん」
「ですが、神父様を・・・！」
「怒りや・・・憎しみにに身をまかせては・・・。」
「・・・。」
「私はもういいのです・・・ですが、子供達は・・貴方が護ってください」
「・・・・・・はい、神父様・・・神に誓ってでも・・・。」


———その日を境に私は、嘘を付くことになりました。

「シスターマリア、神父様は？」
「神父様は・・・私達の為に遠くでお仕事をしに行ったのですよ
　ですので、暫くは帰って来れないみたいです。」

胸がズキッと痛む。
私は子供達に正直に言うことが出来なかった。

「主よ・・・私は正しいのでしょうか・・・。」




———それから数日が経ったある日・・・。

———コンコン

「どちら様ですか？」

「・・・・・・。」

白いフードを被った大柄な男性が数人立っていた。

私は一度見たことがある。
この孤児院に援助金を送ってくれている教団、タリスベル教団。

「・・・あの？」
「お前がマリアか？・・・戦えるものを4人集め、この地図のところへいけ。」
「え？・・・一体何を・・・？」
「・・・それだけだ。」

そう言って男達は立ち去っていった。

訳もわからないまま、教団の言う通り人を集めるが
此処は孤児院・・・私以外は皆子供しかいない。

リヴァラン、ヘリヤ・・・。
この2人が腕が立つのは知っている。とても子供とは思えない程に・・・。
その2人に私を含めたとしてもあと1人、とても此処で4人だなんて・・・。

「マリア様・・・。」
「・・・あ、ノエミ、どうしたのですか？」
「それ、私も・・・いく。」
「・・・聞いていたのですか？・・・いけません。」

ノエミは確かにリヴァランに剣術を教わっているので他の子供達よりは戦えるけど・・・
まだ9歳の小さな子供・・・とてもじゃないけど危険だった。

「大丈夫です・・・此処には私達3人でいきますので、ノエミは子供達を守ってください。」
「・・・・・・マリア様。」

連れていくわけにはいかない・・・。
ノエミだけは・・・。



「それとノエミ・・・マリア『様』ではありませんよ。」

腕試しまでの一時。銃を点検するマリアの前を横切る人影。
年は30を越えたあたりだろうか、褪せた薄緑色の帽子を押さえて話しかけてくる。

人懐こい笑顔を浮かべて大げさにお辞儀をひとつ。

お互い時間が無いのをみてとったか、にこりと笑うとすぐに立ち去った。必要なら城の兵士にでも聞けば商人の連絡先は教えてもらえそうだ。もっとも、信用できるかは別だが———