「わたし」に触れる。
暖かかった。
「私」に触れた。
冷たかった。

死んだような冷たさと、生きているような暖かさが。
とても、心地がよくて。
でも。

「ああ、終わっちゃったんだね」

ただ、それだけは、わかってしまって。
静かに、静かに、泣いた。

しばらく泣いて、思った。
もう、「わたし」は居ない。
「私」も厳密には居ない。
だから、この場所（世界）に私の居場所はなくて。
だけども、きっと。
あの子は、私の中に「わたし」を見るだろうから。
変わってしまった「わたし」を見て悲しむ顔を見たくはないという、自身のエゴを以って、別れようと、思った。

「ありがとう」

血塗れの手から小さな指輪を一つ。
そして「わたし」の残骸の一部をその傍らに。
それしか残せなくて、言葉を残すことが出来なくて。
私の中の「わたし」は寂しいけれども。

「それでも、君がここで生きてくれることが。『わたし』が居た証になると思うから。
今の私は『わたし』でも『私』でもないから。
だから」

無駄に重ねてしまわぬように。
その結果を気に病むことがないように。
私は、行こう。
この世界の、未練以外の何もかもを持ち去って。

「『後片付け』はきちんとしないと、だね」

片手に引きずる男の骸を見て、私は前を向いた。
もう、後ろには振り返れないから。


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別の世界、メルンテーゼへ来たのはよかった。
くるのにも色々あったし、色々と知識の整理をしなくちゃいけなくて、知恵熱が幾度もでそうになったけど。
それでも、メルンテーゼからの要請がなかったらくることも出来なかったんだろうけど。

「んー、どうしよっかな？」

ここで新しい生活を始めていこー、と思ったけれども。
まずはお金を稼がないといけない。
飢えちゃうし。
とはいえ、自分に出来ることなんて少ない。
この世界に来てエンブリオ、っていう存在と偶然契約できたけれども、それがどう役に立てられるかもわかってない。

「ん？　なんだろうね？」

人の集まっているところを見る。
どうやら張り紙のようなものがあって。
それを読んだ私は、なにやら大変なことになっているみたいっていうのだけ理解できた。
えーとね、つまり一揆、とかなんとか言っているけれども。

「つまるところ、王様が資源独り占めしちゃったってことだよね？　それでそれに反抗をしようとしているってことかな……」

そこまで考えて。
ああ、それだったら。

「うん、ならば『遊び相手』には困らなそうだね！」

何しろやることは単純明快。
今の自分に技術はないけども、この剣があるのだから少なからず戦えはするだろうと思う。
それに、戦ってお金が稼げるのなら願ったり叶ったり！
そう思って、王城前へと向かう。
右手でしっかりと剣を握って。

「楽しみだなぁ……一揆っていうのに参加すれば、幾らでも斬ったり斬られたりしていいんだよね！　……あはぁ♪　楽しみ、だなぁ……♪」

この先にある戦いを想って、笑いながら。