メルンテーゼに滞在すること暫し。
ワハブは近隣住人の農作業を手伝ったのち、一人木陰で休息していた。

ぼんやりと、紅い果実を囓る。
果実は、自身の腕のそのひとつに生えた蔦に実る代物。
常に実りをもたらすそれは、幸運なことにそこそこの小腹を満たし、味も良い。
お陰で、今では飢えと無縁でいられている。

ワハブは、自身の幸運に感謝する。



ふっと身体を樹に凭れかける。
葉っぱやら何やら、ほんの少し落ちた。
その中に混じっていたのであろう、芋虫がワハブの腕になる果実の上に降り立ち、齧りだした。
ワハブはそれを赦した。
芋虫は、果実の上を這いずり、それから蔦のほうに身体を寄せていった。
それは赦すわけにはいかなかった。
蔦を囓られれば、果実の実りは得られない可能性がある。
ワハブ当人にも未だ全容を掴みきれていない代物ではあるが、
自分でも理解している範囲の世話はすべきなのだろうという認識でいる。

ワハブは芋虫を、先程まで居た果実に引き戻し、そのまま、果実をもいだ。
果実のほうならば、望むだけ与えられる、と。

芋虫は、地面に置かれた果実をゆっくりと齧った。
ワハブは、それをじっと見ていた。


やがて、果実に僅かな窪みができた頃。

芋虫は上体を、遥か頭上から見守るワハブのほうへと持ち上げる。
持ち上げたその身体が光を帯び……



それが、最初のエンブリオとの契約となった。




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紅い実をひとつ、人に踏まれそうにない場所を選び、大地に埋めた。

（随分と人が多い中を、探しものをするかのように周囲を見回しつつ歩いていた長身の女性。
幾多の人とすれ違う折、ふと殺気……とまではいかないが、怒気のようなものを感じ取ってそちらを見遣る。

この騒動には多種多様な人種の者も集っているようだったが、そこにいて怒りを露わにしている青年らしき者も、どう見ても普通の人とは違っていて。

じっとそれらを見て取って、迷いは数瞬。

結局その女性は、怒って居る方の青年に声をかけた）

（そう告げて、それとなく青年がいきなり自分にも、向き合って居る相手にも殴りかかれないような位置取りをしてから、言葉を続ける）

（色違いの瞳を細めながら、不敵に口元に笑みを刻む女性は、何気に物騒な事を口走るのだった——）

突然銀色の耳と尻尾を生やした蒼い瞳の狼子供が駆け寄ってきて、瞳をキラキラと輝かせて見つめている！
どうやら興味津々の様子だ。