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隊商ギュネス　業務日誌記入用紙
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■報告事項■

　①"一揆"の発生とその加勢について
　②エンブリオとの契約成功について


■詳細■

　①"一揆"の発生とその加勢について
　　　　承知の通りメルンテーゼは王制であるが、この度王の交替があったらしい。
　　　　その新王の政策（後述）に対し不満を持った人々により、各地で反乱が発生。
　　　　この反乱は通称"一揆"と呼ばれ、メルンテーゼ全土から集まった人々により
　　　　現在進行形で勢いを増しつつあるようだ。
　　　　なお、他世界に対し加勢の要請も行われており、
　　　　加勢を目的としてメルンテーゼを訪れた者もいる。
　　　　情報が前後したとは言え結果的にこのタイミングで来訪してしまった以上、
　　　　小生もこれに加わる形をとるのが最適と思われるため、
　　　　暫くは反乱軍に身を寄せて様子を見る次第である。

　②エンブリオとの契約成功について
　　　　"エンブリオ"との契約に成功した。
　　　　エンブリオの契約には"ネクター"という紅い花の花びらが必要であるが、
　　　　逆にこの花びらとさえあれば異世界から来訪者でも関係なく契約が可能。
　　　　正確にはこれに加え、エンブリオに力を認められることが条件であるらしい。
　　　　メルンテーゼでは実に多種多様な種類のエンブリオが、
　　　　これまた実に多種多様な生命体と契約を結んでおり、
　　　　ネクターとエンブリオあればこその世界となっている。

　　　　なお小生が契約したのは風を操る力を持ったエンブリオで、
　　　　この世界では"シルフ"に分類されるらしい。

　（※）新王の政策
　　　　　新王の政策とは、大まかに言えば「この世界のネクターを独占する」というものらしい。
　　　　　前述の通り、ネクターとエンブリオあればこそのメルンテーゼで、
　　　　　そのような行動が人々に歓迎されるわけもない。
　　　　　また、少なくとも王の座に就ける状態にある人物が、
　　　　　その単純明快な事実を事前に想定できない可能性も考え難い。
　　　　　民の反乱という障害を加味しても利となる何かがあるか、
　　　　　もしくは公にされていない何らかの事情があるか、
　　　　　単に世界征服を夢見るお年頃なのかは定かではないが、
　　　　　目的次第では反乱に加勢することが我々の利とならないことも考えられる。

　　　　　だが地元民は一種の熱に浮かされたような心理状態になってるため、
　　　　　民側に身をおく以上この点に関しては情報収集は困難になりそうである。
　　　　　外部から調査が可能であればお願いする。


■その他感想等■

　　内部情勢がごたついてるという情報は本当だったみたいだけど、
　　思ったよりさらに面倒くさそうなことになってたので、まぁ適当にやります。

　　なお契約したエンブリオが可愛いのでこの子と浮気します。隊長はごめん。

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一通り読み返して、鞄にペンをしまう。

用紙の上中央に描かれた、太陽を象った紋章の部分を掴んで持ち上げる。
僅かに念を込めると、紙は細かな灰のようなものになり、風に溶けて消えた。

こうすることで本部の業務日誌に内容が転写される仕組みである。
翌日には向こうからの伝言とともに、また新たな記入用紙が鞄の中に届いているのだ。
隊長が構築したシステムだが、なかなかに便利である。
同時に書く側としてなかなかに面倒臭いのだが、それは黙っておく。




さて、連日この用紙を使う機会がある──すなわち、単独での長期の仕事をするのは久しぶりだ。
事前に隊で仕入れていた情報は少し遅れていたようだが、
自分の到着タイミングとしては増援の要請に応えるものと大差ないものになったため、
これはどう転んでもそれに巻き込まれざるを得ないだろうし、避ける必要もない。

戦闘を行う必要も恐らくはあるだろうし、戦いだけやっていれば済むものでもなさそうなので、
派遣されてきたのが自分であったことは、隊員を消去法で考えるとまぁ適任と言える。

とは言え、だ。
初めて訪れる世界で、内部が荒れているとなると、
これは早いところ現地に詳しい人と手を組むのが無難であろう。
幸いなことに異世界からの来訪者も多いタイミングであり、
そちらとも仲良くなることが出来ればそれもまた良い人脈となるだろう。









───などと、真面目に考えてみつつも。

何だかんだわくわくしている自分を自覚して少し楽しくなる。

新しい世界との出会いというのはいつだって、好奇心への最高のご馳走だ。

副隊長に心配されているところ悪いが、久しぶりに独りの仕事だ。好きにやらせてもらうとしよう。

とりあえずは右肩に乗っているエンブリオに一声かけて、風に誘われるままに歩き出してみる。

フェルハトに目を留めて、近寄ってきた。

忠告にきただけのようで、目的は果たしたとばかりに踵を返そうとしている。

あなたが王城前を歩いていると、
大きな帽子をかぶった、眼鏡の女が話しかけてきた。
女の後ろには大きな樹が複雑そうな顔をして立っている。

　

　

勝手に決めつけた女は、男の行く先についてこようとしている。
少なくとも商品の内訳を見せるまでは、大人しくならなそうだ。
少女の後ろの樹はその様子をみて、ひとつため息をついた。