現代日本によく似た、とある世界の一枝。
其処では『異能』が暗躍し、人知れず世界に脅威が侵食しつつあった。

「我らと同じ『瞳』を持ちながら、我らの崇高な目的を邪魔する男よ。さしものそなたといえど、もはや立ち上がれまい」

夜闇、ビルの屋上。
黒衣の女が、にやりと笑う。
漆黒のローブがばたばたと夜風にはためいていた。

「カノッサ機関のナンバーナイン……『絶氷の魔女』ルーフレンテ。確かに、強いな」

学生服の男が、ゆっくりと立ち上がる。
ぱきり、と。氷の砕けるような音。衣服の端々から、割れた氷が落ちる。
男の名は柊　魔異。彼もまたその『異能』を得た人間の一人である。

「直撃でなかったとはいえ、我が『エターナル・フォース・ブリザード』を受けて尚立ち上がるだと！？」

狼狽するルーフレンテ。
対する男は不敵な笑みを浮かべ、バンテージの巻かれた右手を前に出す。

「足りないな。俺の風を止めるには、まだ足りない」
「しかし、能力の９割を『凍結』させられた状態で、そなたに何が出来るッ！！」

女の持つ能力、『エターナル・フォース・ブリザード』の属性は『凍結』。
瞳に映る一切を凍てつかせ、時をも永遠とする異能。
再び、魔異の周囲が凍結していく。それでも、男だけは凍てつきはしない。

「何だって出来るさ。俺の風は、止まらない」

暴風。凍てつきながらも荒れ狂うそれは、ついに女へと肉薄する。

「柊……魔異ォォォォォォォッ！！」

絶氷。陵轢されながらも凍てつかせるそれが、暴風に抗う。

二つの異能が交差したその時、その世界には異変が起こった。
虚空に生じた穴が、男の身体を飲み込んでゆく。

「————！」

そうして、魔異の意識は、白い闇へと包まれた。

街中を歩いていると、ふと視線を感じました。
フードをかぶった、とても小さな女の子が、じっとこちらを見ています。

目が合うと、女の子は少し首を傾げてみせてから、てくてくとこちらに歩いてきます。

てくてくと歩いてきて。ピタリと目の前で足を止め。
そして、開口一番、
こんなことを口にするのでした。

決め付けるような口調は、少し傲慢にも聞こえます。
とはいえ、腰ほどの伸長しかない小さなs女の子が口にすると、ませた子供、ぐらいにしか見えません。

　ふと見かけた姿に、“近い”ものを感じて立ち止まる。

　紡いだ言葉は、一度も使ったことのない祖国の言葉——“日本語”。首を傾げて、この世界の言葉で確かめる。

　とても“近い”。けれどこれは、よく似た別の世界の魂（もの）だ。そう思った。