よくわからないが、どうやら自分は召喚されたらしい。
エンブリオ（精霊のこと？）と契約を結ぶのが常識的な世界で、契約を結ぶのに必要な物を独占する奴に氾濫を起こすため、異世界から精鋭を募っていた関係で呼ばれたのだと、召喚した奴は言った（ゴツい見た目の長身の男だった）

お前が戦えよと思わずツッコんだが、そいつは数秒停止した後、宗教上の理由でできないとかぬかしやがった。エンジェルいるじゃねーかと思ったが、天使を信仰しているとも限らないからまあ仕方ないのか。
私としては、異世界から一方的に魔王召喚するのは宗教上の理由に反さなくても道徳的に反するんじゃないだろうかと思わないでも無かったが、まあいい。
そいつを放置して一般人らしき人に話を聞いてみるとどうやら本当らしいし、千里眼（上位の遠見魔術なのだが、この世界だと精度が異様に悪かった）を使って見ても困っているらしいのは目に見えて分かったので、手伝ってやる事にする。

…日記で嘘を書くべきかどうか迷ったが、日記には本心のみを書く事にする。
正直に言うと、余計な事を色々と思い出してしまった。彼等は私の世界にいた彼等とはまったく違うし、彼等を助けたからと言って何かが変わるわけでもないし、贖罪になるだなんて思ってない…はずだけど。
苦しんでいるのを見ると。笑っているのを見ると、なんだか心が苦しいから、私の力が及ぶ限り全力で助けようと思う。

近寄りがたい雰囲気を纏っていた。尊大で大きく仰々しい物腰のあなた様を見て物怖気づいていた。フィーグルを遠目から見ていた偽は恐る恐るその場を後にしようとしていた。
踵を返して離れようとすると別の誰かにぶつかった。平謝りしながら駆け足気味に走った先はフィーグルがいた。
前を見ず歩いていたものだから足がもつれる、バランスを崩す。こける。べちんと。

「痛……」

フィーグルの前で「ずるべっしゃぁあああ」という効果音でもしそうな音を立てて、こけた。見上げた時に涙を浮かべていたのは、あなたが怖かったからか痛かったからかどちらなのだろう。