ここではないどこかの世界。
そのどこかの国にあるどこかの教会。

立派な造りで地元では有名な教会です。
日中はお祈りのために多くの人が来ますが、今は夕方です。
礼拝堂に人の姿は見当たりません。とても静かです。
夕陽がステンドグラスを通って差し込み、聖母像を七色の光で照らしていました。


牧師室の扉の前に少女が立っていました。
黒いスーツ、しかもスラックスを着た少女の姿は教会にはとても不釣合いで、他に人が居たらきっと目立ったに違いありません。

二度、軽くノックをしました。
少しの間を開けて「入りなさい」という声が中から聞こえてきました。
少女は元気良く返事をして扉を開けました。
中では祭服を着た男性が迎えていました。
とても整った顔立ちで綺麗な長髪と合わせて見ると女性の様にも見えます。

「リナ＝クロウリー、ただ今参りました」

少女は背筋を伸ばし大きな声で言いました。

「ご苦労。楽にしていいですよ」

優しさと威厳両方を兼ねた声で神父は応えました。

「『エルタ南方の巨大地下構造物の調査結果の報告』──読ませてもらいました。宝玉を持ち帰れなかった事は残念でしたが、よく頑張りましたね」

少女にとって神父の労いの言葉は意外でした。一瞬驚いた表情を見せた後、笑みを浮かべながら頭を下げました。

「前置きはこの辺りにしておきましょう。夕食の時間も近いことですし。
　第6級天使名称リナ＝クロウリー、貴方に次の任務を言い渡します。異世界メルンテーゼへ赴き支配者を討伐しなさい」

前回の任務は少女にもすぐ理解出来るような内容でしたが、今回は少女は首を傾げました。

「異世界、ですか？そんなものがあるんですか？」

「ええ。”世界”にはこの世界以外にも多くの世界、異世界が存在しています。それをなぜ今まで貴方に隠してか分かりますか」

少女はしばらく考えましたが、何も思いつきそうに無いと顔に描かれたところで神父が遮りました。



「非常に残念なことに、異世界には『神』の教えが全く伝わっていないのです。これは我々天使の怠慢であり、とても憂慮すべきことです」
「それぞれの世界には異なる”教え”が広まっています。しかし『神』の教え以外に世界を平和に導く方法は無いのです」
「現にそのメルンテーゼでは王を名乗る支配者が民に圧政を敷いています。我々の為すべきことは一つ、『神』の教えを民に説き、真理に至った彼らと共に王を討つのです」



少女は静かに神父の言葉に耳を傾けていました。
神父は最後に「『神』は唯一絶対であり、それは異世界においても同じなのです」と付け加えました。

「強い心を持った今の貴方であれば、異教に染まらず『神』の教えを説くことが出来るでしょう」


「はい、頑張ります！」

少女は元気よく応えました。神父の言葉をちゃんと理解できたのかはよくわかりません。

「異世界では文化も大きく異なります。出発する日までのこれらの本を目を通して勉強してください」

神父が指差す方向を見ると分厚い本が何冊も積み上げられていました。

「はい、頑張ります！」

少女は元気よく応えました。


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数週間後。
少女はあのスーツではなく女袴を着ていました。
頭には昔男子学生が着用していたと言われる帽子を乗せていました。
そして手には竹槍と呼ばれる簡素な造りの武器を携えていました。

「メルンテーゼにいるという伝説の竹槍マスター…倒してみせます！！」

少女、リナ＝クロウリーは旅立ちました。