元素の世界メルンテーゼ。
エンブリオと呼ばれる生命体、それとの契約によってこの世界は繁栄を築いてきたようだ。
そしてその契約にはネクターと呼ばれる紅い花びらが必要となる。

私もメルンテーゼに着いた後、よりこの世界、住人、暮らしを知るために早速そのエンブリオと契約を行った。
今はまだ特段何をしたというわけではないが、この先きっと私の役に立ってくれることだろう。


そんな折、この世界の王が新しく変わった。
王が変わり、その治世が先王時代と大きく変わるということはよくあることだ。
だが、この世界に於いて異邦人に過ぎない私にはさほど関係のないこと、そう思っていた。

ところが新王のやり方は峻烈に過ぎた、いや、程度の問題ではなく根本からおかしかった。


富や叡智を独占したがる愚王は歴史を紐解けば枚挙に暇がないが、
新しき王はメルンテーゼという世界の成り立ちの根幹を成すとも言えるネクターの独占を始めたのだ。

それは貨幣経済の成立における社会・経済構造の変革などとは違い、メルンテーゼにおいては普遍的に存在し、世界の基礎としてあったもの。
それを根こそぎ簒奪しようというのだ。


これにはさすがに住人たちも黙ってはいなかった。
各地で反乱が起き、他の世界からの応援も呼び込み、一斉に蜂起したのだ。


さもありなん、王とは民草から貢を享受し、数多の特権すら持つが、その代わりに世を治め、何かあらば守る責務がある。
位高ければ徳高きを要す、これをノブレス・オブリージュと呼ぶ世界もある。

その弱き民を守るどころか、世界の繁栄すら独占しようする暴挙。
私も異邦人とは言え、その横暴を看過することはできず、この一大一揆に身を投げることとした。


…だが、その実、王の行為が許せない、という単純なものだけではない。

なぜ、新王はそのような暴挙に出たのか、その理由が気になった。
ただ単に己の満足のためだけに独占しようというのならば許されるものではないが、果たしてそんな単純なものなのか？
何か裏に理由があるのではないか。

また、新王に味方する者らとてこの世界の住人が大半だろう。
彼らはなぜ新王の側についたのか？
見返りとしてネクターや莫大な褒賞が約束されているとしても、全てがそれだけだろうか？

全ては今は謎のままだ。


世界の中枢、新王に近づけば、その答えも見えてくるかもしれない。
そして私は走りだした。