レーネフィア記　Af.5017.2D.19,世界移動から一日目

「……おかしいわ。全然契約できないじゃない」

もう数十回目にもなるエンブリオとの契約失敗に、私ははしたなく毒づいた。
この世界に降り立ってからというもの、目に付いたエンブリオ——正確にはシェイドやデビルのエンブリオに契約をしようとしているが、一度として契約が成功していなかった。

「吸血鬼だし、闇の属性こそ私に相応しいのだけど——おかしいわね」

同じ徒労を繰り返し、シェイドやデビルに逃げられ続ける事、更に三時間。

「……あぁあぁああああもう！？　ここおかしいんじゃないの！？」

思わず癇癪を起こして地団太を踏む私。

「……おっと、いけないいけない。常に高貴さを忘れず……」

慌てて姿勢を正し、乱れたスカートの裾を整える。
豪奢なレースの付いた裾にはしかし、ほつれもあるが気にしてはならない。ほら、お祖父様も襤褸は着てても心は錦って言ってた。
気を取り直して再び周囲を見渡すと——、

「——、？」

いた、エンブリオだ。

「でもこれ……、ウィスプね」

光の属性を持つエンブリオ、ウィスプ。
当然吸血鬼とは相容れない、筈。
流石にこの際えり好みはできないけれど、これとの契約はできない……と思う。
……でもよって来てる。なんかすごく寄って来ている。

「……まさか、ねえ」

この世界に来て一つだけ手に入れていたネクターを、ついて来ているウィスプに捧げる。
すると——、

「……あれ？」

光り輝くウィスプ。
果たされた契約。

「……あれ？」

更に懐いてくるウィスプ。
反射的に頭を撫でてしまうというか頭はどこ。

「……え？　あれ？」

おかしいわよね。私吸血鬼だよね。
なんで光属性と契約できるのかしら。
シェイドは何十回試してもうまくいかなかったのに。
なかった事にすべきかどうか少し考えたけど、ネクターを使ってしまった以上もったいないし、正直自分を慕って来た者を——それが人の形をしていようとそうでなかろうと——見捨てるというのは、高貴な振る舞いではない。

「……仕方ないわね。私について来る以上、高貴たるふるまいを忘れない事よ。なんと言ったって、あなたはこのレーネフィア・ディ・ステラの従者なのだから——ね」

ウィスプを背後に従えて、優雅に、高貴に歩き出す。
向かう先は……確か、城門前だったはず。



少し歩いたところで、ある事に気付いた。

「……あ、そうだ。　単純にウィスプでは区別がし辛いし、個別に名前が必要よね」

すぐに腕を組んで考える。

「……この私が最高に格好のいい名前を付けてあげるわ。　ええと——」

少し悩んだ後に、

「そう、あなたの名前は……レディアント・ブリリアント・シャインよ！」

……なんか凄く拒絶の動きをされました。