元素の世界、メルンテーゼ。

その奥底、深い深い闇の底に、蠢く影が二つ。


「——戻ったか、スネーク。」

「ボス、その呼び名は止めてください。なんか紛らわしい。」

「えー、良いじゃんスネーク！カッコイイのになぁー。」


——蠢く影（？）が二つ居た。
片方は若い男だ。中性的な顔立ちをしていた。
もう片方は中年の親父。メタボな体型にひょうきんな顔立ち、威厳は無い。
二人そろって黒い衣装に身を包み、何処とも知れぬ深い闇の中で邂逅する。


「それじゃあ【黒閃の雷蛇】ことラインくん。首尾はどうだったかね？」

「はっ。私が調べた所によりますと——」


そして、男——ラインは語り始めた。
メルンテーゼの世界で動き始めた、”一揆”の詳細を。
世界の”王”へと反逆する”参戦者”達の話を。


「何者が手引きしたのか、様々な世界から参戦者達が集まってきております。
　その殆どがフリーランスの傭兵——大義も忠義も無しに動く者。
　言うなれば、烏合の衆です。」

「ほほぅ、では危険はないのかね？」

「…いいえ、逆です。
　まるで連携の取れない烏合の衆でありながら、個人個人の能力は軍の一般兵を凌駕します。
　大義も忠義も無いからこそ、頭を潰しても止まらない——厄介な連中です。」

「うん、そうだねぇ。実に困った事態だよ。
　そもそも我々は影の組織だ、表立って戦う事も出来ない。
　それは軍の仕事だけれど、どこまで止められるものかねぇ？」

「それでは、我等”執行官”に成す術は無い、と——？」


”執行官”、ラインは自らをそう呼んだ。
それが彼らの組織の名、王に代わり王に仇名す者を討つ。
決して表には出ずに、世界を裏から動かしてきた闇の住人達だ。

しかし、この大規模な一揆において、彼らにいかなる役目があるというのか。
ラインは歯噛みする思いで顔をしかめた。

しかし、中年の親父…彼らのボスはにやりと口元を歪めるように笑う。


「それなんだがね、雷蛇くん。キミには特別な任務を与えようと思うんだ。」

「…と言いますと？」

「確かに彼らは数も多く厄介だが、その中でもひときわ危険な参戦者も居るだろう。
　キミにはそれを探し出し、個別に対処してもらいたい。
　彼らの中に潜入して、内からね——」

「…つまり、スパイ、ですか。確かにそれは我々向きの仕事ですね。
　分かりました、黒閃の雷蛇の名にかけて、その任務成し遂げて見せます。
　我等が王の為に！」

「うんうん、我等が王の為に。
——じゃ、これが潜入用のプロフィールと衣装ね！」


意気込むラインは、妙にウキウキとしたボスの様子に気付かなかった。
その為、渡されたプロフィールと衣装を見て素っ頓狂な声を上げる事になる。
「ほぁっ！？」
そんな声と共に、目が丸くなる。


「ライネ・スパークル！？なななっ、何ですかこれはっ！？」

「あるぇー？気に入らなかった？ライトニング・スネーグからもじってライネって名付けてみたんだけど！」


そう、ボスのネーミングセンスは致命的に単純なのだ。
そもそもラインの名も、ボスにより名付けられた物だ。
名を持っていなかった彼に与えられた唯一の名であるが、ネーミングセンスは当時と全く変わっていない。
正直ラインはうんざりしていた。やれやれだ。
「——って、そっちじゃなくて！？」
慌ててラインはかぶりを振った。危うく問題がすり代えられる所だった。


「この”魔法少女”と言うのは何ですかっ！私は男なんですが！？」

「……ふむ、その事かね。それはとても重要な訳があってだね…、心して聞き給えよ？」


ふと、真面目な表情を見せるボス。その鋭い眼光に、ラインは蛇に睨まれた蛙のように身を竦めた。
滅多に見せない上司の真顔に、固唾を呑んで続く言葉を待つ。
それ程までに重い理由だと言うのか。


「キミが魔法少女になる理由、それは僕が——」



「僕が、男の娘が大好きだからだぁぁぁぁっーーー！！！」


「はぁあぁぁぁっーーーー！！？」