メルンテーゼからの一揆の援軍要請に応えるために、人員の選定が行われている事は民の全員が知っていたが、
まさか自分が選ばれるとは、卯の花腐しも、また周囲の誰も思ってはいなかった。


世界を越える大役を、２度も重ねて務めた人物は、かつていなかったからである。


世界を渡る事は非常に危険であったし、セルフォリーフから奇跡的に戻ってきた卯の花腐しは、そのとき既に左腕が霧の如く不定形なものとなっていた。
周囲の反応は様々で、彼に同情するもの、妬むもの、
穿った見方をするもの、或いは憧憬をするもの、千差万別であった。


だから、卯の花腐しは長達と巫達の前に呼び出されたときに、
「私に落ち度や、或いは民に害なす所があって、始末したいとお考えなら、そう言って戴きたい」
と思いつめて言ったものだ。


最も年老いた長もまた苦い表情で答えた。
「正直我等も困惑している。この激務に耐えうる身で無い事も承知している。だから最初からお前は除外されて選定を…」

「だが選定の『例外』だ。水の啓示でお前の名が３度も示された」

巫が凍て水のごとき口調で長を遮った。

「逆に言えば、他の者では危険なのだ。
良いか、己も我らも疑ってもよい、だが水の啓示は動かぬ。

世界で唯一外界へ渡れる花喰い鳥の民として、
メルンテーゼへ赴き、圧政への叛旗の一助となれ。

選ばれたのはお前なのだ、卯の花腐し」