青年がそう言って、目の前のノートをぱらりと捲った。
当然、そのページ達は全てが真っ白で、誰かに使われたような形跡も無い。
本当に何の変哲もない、ただのノートが一冊、部屋のベッドの上にぽんと置かれていた。

試しに青年がある単語を書き入れてみると、それはノートの中に溶けて行った。

その不思議な光景を見ただけで青年は何かを悟ったのか、そう言ってノートをベッド脇の机に放った。
暫くそのままベッドでごろごろとしていたが、気が変わったのかノートを開き、何かを書き始めた。

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鳴瀬御舟だ。
これを書いていると言う事は、俺が無事だと言う事であると、お前にも分かっているのだろう。
結論から言うと、こちらの世界はある程度安定しているようだ。 名を『メルンテーゼ』と言うらしい。
この世界は『ネクター』と言う花を使って、『エンブリオ』と言う存在と契約する事で力を発揮出来るらしい。
……どうやら、この座標で行き着いた世界も、お前が探している物では無さそうだな。

…この世界は今、世界を治める王に対して、異世界から来た者の参加も募った世界規模の一揆を仕掛けている所らしい。
……と言う事はだ、未だ俺も見た事の無い異世界の武器を目の当たりにする事もあるのだろう。
そう思うと、今回ばかりはすぐに其方へは戻れない。

鈍く光る銃身、鋭い光の刃、曰く付きの武器達…。
考えただけで、心躍る感覚……お前には容易に想像出来ている事だろう。

だからこそ、此処で言わせて貰う。
俺はお前に借りがあるが、今回だけは時間をくれ。
この世界でどれ程の武器が見られるのか、それが気になって仕方無い。

お前への借りは、この右目に義眼がある限り忘れる事は無いだろう。
だから、必ず戻る。 今はそれだけ約束しよう。

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そこで青年…ミフネは筆を止め、ノートに吸い込まれていく文字を眺めていた。

文字が全て消えたのを確認したミフネはノートを閉じながら、静かに思考を巡らせる。

声に出されなかったミフネの疑問は泡となり、空気の中へと溶けて行った。