暗い夜道を一匹の獣が闊歩していた。
闇のように真っ黒な風体は夜の闇に紛れてはいるが、しかしギラギラと光る細められた瞳はその存在を示すかのように目に付いた。
しなやかな細い前足が右へ左へと迷いなく運ばれ、やがてその足取りは夜の森の奥へと辿りついた。
獣は朽ちかけた木の下に腰を下ろすと、その真っ黒な身の毛繕いを始める。

心底うんざりというように口を尖らせた獣だが、その口は開く隙間もなく拘束されていた。
声帯ではなく、でも確かに獣は声を発した。

獣は再び歩き出した。
真っ黒な鼻を地面に擦り付けるようにして嗅覚を研ぎ澄ます。
やがて、何かを見つけたかのように足を速めた。

やがて獣は森を抜け、大きな城砦の前に出た。
城壁に鬱蒼と茂る緑を呆けた顔で見上げている男を見つける。
どこか辺境の村の出身なのか、独特の衣装を身に纏い、伸びきった黒い髪の隙間から空ろな目を覗かせている。
この辺りに住んでいる風でもないのに男は全くと言っていいほど荷物を携えていなかった。
ただ腰に提げた袋の中に最低限の物が所持されているのだろうか。
旅人というにはあまりもお粗末なものではあった。
そのあまりの滑稽さに獣は笑みを深くし、男の傍まで駆けつけると声をかけた。

男は眉ひとつ動かさず、また城壁を見上げた。
それを見た獣は威嚇するようにひと鳴きすると、男の右腕に噛み付いた。

獣の尾の炎が男の腕に纏わりつくように這い、不気味な痣となって焼き付く。

そうして、一方的に契約は成された。

40cmほどの大きさの人形がとても軽い足音立てながら走ってくる。

スカートを持ち上げて一礼。
笑顔の後に、踊るようにしてくるりと背後へと回り込む。
遅れてやってきたのは、身長は170前後、青髪の耳長。

のろのろと顔を上げると、ラルフを見据える。

ハーゲンワースの身体が赤々とした炎へと変わり、クラガドラシアの右腕に絡みついた。