むかし昔、と言ってもそれほど昔ではなく、ごく最近。
散村に1人の若者がおりました。

若者は村はずれに住む若い娘に恋をしておりました。

娘は、親が残した古くて小さなボロ屋に1人で住み、
家の周囲の畑や果樹を世話して日々を過ごしていました。

毎年、どっさり採れた作物を村人同士で交換したり、
田畑を荒らす獣を捕らえてバーベキューをするほかは、
お互いに交流もなく、細々とした生活を営んでおりました。

常日頃から、若者は娘に
「女の１人暮らしは苦労も多かろう。
力仕事など男手が必要なときは呼んでほしい」
と声を掛けておりましたが、
娘は「大丈夫、問題ない」と、どこ吹く風。しまいには、
「エンブリオがありますから、
日常生活で困ることはありませんわ」
と、はっきりと申し出を断るようになりました。
若者は面白くありません。

あるとき、恋路を邪魔するエンブリオを盗み出してしまおう
と思い立ち、若者は夜中にこっそり娘の家に忍び込みました。

そのついでにあわよくば、と下心を発揮して、
若者はそうっと娘の姿を覗き見ました。

間接照明でぼんやりと、
背を向けて座る娘の後ろ姿がみえます。
ゆらゆらと長い髪が、波打つようにうごめいて、
後頭部が横一文字にぱっくり開くと、白いギザギザの歯と、真っ赤な口。
触手のようにざわめく髪の下から、爛々と輝く２つの目が現れて、
ぎょろりと若者を見つめました。

肩越しに振り向いた娘が恐ろしい声で「見たな」と呟くと、
ばりばりと若者は食い殺されてしまったそうです。

めでたしめでたし。