自分でも、どうしてそんなことをしてしまったのかわからなかった。
ただ、赤くなった頬を押さえながら呆然と膝をつく兄の姿を見ていられなくて、たまらず庭へ飛び出した。
はぁ、と大きく息を吐き、握りっぱなしっだった拳を解く。
…痛い。私の手がこんなにも痛いのだから、お兄ちゃんのほうはもっと痛かったのだろう。
だって、グーなのだ。グーで殴ってしまったのだ。

……

あとでなんと言えばいいんだろう、どうやってあやまったらいいのだろう。
きっと何を言ってもお兄ちゃんなら許してくれるんだろうと、わかってはいても言葉は浮かばない。
お兄ちゃんは私を心配してくれていたのに。どうして、こんなにひどいことを。
それは。それはきっと、私の我侭な想いのせいなのだ。
私が一人で行くと言えば、お兄ちゃんはきっと私に付いて来てくれると思っていたから。
引き止められるなんて、思っていなかったから。
だから、お兄ちゃんは私の想いよりも仕事のほうが大切なんだと、思ってしまった。
冷静になって考えれば、そんなはずはないとわかるはずなのに。

…

倉庫の壁にもたれ掛かって、そのまま目蓋を閉じて座る。
今晩はロールキャベツにしよう。兄の、フレッドの好きな。
そして一言、ごめんねって言えばいい。そう、そんなことでいい。
そうやっていつも通りに話せるようになったら、もう一度伝えよう。
今度はそのままの気持ちで。

私なら、大丈夫。
きっとうまくやっていけるから。
ちゃんと、帰ってくるから。