「冒険って、凄く楽しいのね！」
数ヶ月ぶりに目を開いた少女は、突然そう口にした。

それなりに大きな館の、自室の天蓋付きのベッドで、寝ていた、というには少し長い時間を眠っていた少女。
彼女の名はミラ・レラーバナと言った。

ミラは貴族の娘であり、館の中で日々を過ごして育ってきた箱入り娘である。
両親にとても大切に扱われ、召使いがミラの欲しいものを準備するため、彼女は館での生活で不自由を感じることはなかった。
また、彼女自身の大人しい性格もあり、彼女の生活は幸せなものであった。
館の外に出ることに興味はあったが、親の反対があって御転婆な真似をするようなことはなかった。

そんなミラではあったが、外に出るということを擬似的に体験することはできた。
それは本——物語を通じて、ミラは冒険することをイメージする事ができたのである。
綺麗な言葉で飾り付けられた世界を旅することは、ミラを虜にしてしまった。
作り物の話だとは分かっていても、世界を見て回る物語の人物達を眺めることをミラはとても楽しく感じていた。
同時に、彼らを羨ましくも思っていた。彼らは武器を手に取り、魔法で敵を薙ぎ払い、時に空を飛ぶこともあった。
それらのすべてはミラが持っていない力であった。
何冊もの本を読む内に、外へ出て、ファンタジーめいた力を持って冒険をしたいという欲は強まっていく。

その内にミラは時折空想に耽るようになった。
武器を振るい、魔術で敵を吹き飛ばし、宙を自由に舞う英雄のような自分を想像した。
そして、その度にそれらが何一つ出来ない現実の自分に溜息をついた。
館の外に出たいと思うも、剣を振りまわすことも満足に出来ない自分には無理なことだと理解できていたためにそれもできない。
親も、ミラに武器を持たせることは許さなかった。

相変わらず館の外に出ることはない退屈な日々を過ごす内に、ミラはある夢を見る。
今自分が居る世界とは別の世界に誘われ、そこでの自分は物語で人物を設定したかのような楽しい力を持っていた。
念じた武器を具現化させ、色を呼ぶと炎や雷を起こし、幽霊のように宙に浮いては壁を抜ける。
とても素敵な自分の姿がそこにはあった。

ミラは新しい自分に夢中になった。
この自分なら冒険をして、世界を見て楽しむことができる。
館の中では見つけられなかった楽しみが、この世界には沢山溢れている——


……夢の中だということも忘れ、ミラは冒険を続けていた。
だが、夢は何時かは醒めるもの。
何時までも、眠ったままでいるわけにはいかなかった。