『妖精隷姫』

　ロギはこの世界の妖精隷姫だ。妖精の女王に仕える側近。
　人間は、妖精のこともエンブリオと呼ぶ。
　エンブリオは契約すると人間を様々な形で援ける。そのはずだった。
　人間の王の独自の政策は様々な形で妖精界に波及する。ロギは妖精女王の命を頂き民衆の一揆を支援する係に回された。王政府側を支援する班もおり、両方に尻尾を振っておくという当然の処世術だろうと、ロギは思っている。

　ロギの目の前を赤い花が横切る。ロギはこういった横暴な契約は結んでいない。自分に見合った適切な力量の相手と共に進む、とあらかじめ決めてから妖精の里を出発したのだ。

　彼女はハズサ様。同じ任務を受けた妖精の一人で、私と同じく剣との相性が良い。

　ハズサ様の両手に剣が握られる。仕方ない、と呟いてロギも両手に短剣を握った。ハズサの得物より三倍小さいが、この方が小回りが利く。
　ハズサ様がゆっくりと旋回しながら上昇してくる。右へ風を切って大きく相手の狙う正中線をずらした。ハズサ様は執念深く追い込み一撃二撃と決めに行くうえ、武器の重さと契約主の筋力を水増しする特性がある。一方ロギの特技は相手の次に移動するスペースを先読みし、契約主をナビゲートすることだ。つまり、読み合いになっている。

　実際、その野次の指摘する通りとなった。ロギは完全に周囲10cmの距離をハズサ様にうろつかれている。
　詰んだか、と流石に呟いて、右手の剣を二度振ってから野次の主のところへと飛翔した。ハズサ様もついてくる。
　あら大変、とハズサ様が野次の主を見つけたようですっきょんとうな声を出した。

　ハズサ様は額に血管を浮かべながらわなわな震えている。視線の先を見るが、どうも声の主が見つからない。

　……。前足大事なのかな。とりあえず折ろうか。よし、ペキッって音がしたぞ！！

　泣いてる。悪いことしちゃったかな。でも回復魔法は使えないから無視しよう。

——ようせいしもべひめ——

黒猫は獲物っぽい雀を見つけ、飛び掛かろうと…

直前で(ナンカチガウ！？）と気付き、初回から戸惑い中です。