「一揆に参加するには、この人を相手に私の力を見せればいいのね。」
　筋肉隆々の大男を前にして、一人の少女がそうつぶやいた。

　この少女の名は、クロエ・シャリエール、通称クロエ。
　年齢は13歳程度だろうか、プラチナブロンドっぽい髪色に長さ胸まで程度のツインテール。
　まだ幼さの残る顔立ちだが、大男と向き合っても物怖じせず楽しそうに微笑んでいる。
　これから始まる戦いの予感にわくわくしているようだ。

　この少女、クロエがなぜ一揆などという物騒なものに参加することになったのか。
　それは、今から少し前の出来事。
　かつてクロエの住んでいた、良質なネクターの産地としても有名なとある街でおきた凄惨な事件がきっかけだった。


　クロエは、その街にある格闘道場の一人娘として、幼い頃から格闘を学び育ってきた。
　エンブリオと契約し、そのエンブリオの力を上手に引き出しつつ徒手空拳で戦う格闘術。
　クロエはその中でも特に打撃技と関節技に興味を持ち、それなりの力を持つに至っていた。
「格闘ではもっと強く、強くなりたい！」
　
　そんな平和な日々が続いていたある日、新しい王の遣いという役人がこの街にやってきた。
　その役人は視察と称し、ネクターという名の紅い花が植えられている畑を見回すと、突然こう言い放った。
「この街にあるネクターをすべて新しい王へ献上せよ！ 拒否は認めない！」

　ネクターはエンブリオという生命体と契約する為に必要なものであり、エンブリオは住人達にとって必要不可欠な存在だ。
　その大事なネクターをすべて渡すなど、できるはずもない。

　当然拒否をした住人たちだったが、その代償は大きなものだった。
　新しい王へ苦情を申し立てにいった使者は、死者となって帰ってきた。
　使者の変わり果てた姿を見て、街の住人たちの間に動揺が走った直後、王の兵隊たちが現れた。
　その兵隊たちは無言で街に火を放ち、街そのものを破壊していった。
　格闘道場の師範たる両親と、道場最強と言われクロエが密かに想いを寄せていた先輩は、兵士たち相手に善戦したものの
ローブを纏った魔法使い風の相手から強大な魔法攻撃を受け、道場もろとも消え去った。
　
　クロエは道場の地下室で一人、最近契約したエンブリオの力で気配を消しつつ、事が終わるのを震えながら待っていた。
　そして道場を消すほどの強大な魔法攻撃の余波で、いつのまにか気を失っていた……


　ふかふかの布団の感に包まれながら、クロエは目を覚ました。
　見慣れない木造の部屋の、ベッドの上。
「ここは……どこ？」

　隣の部屋にいた人に聞いてみた所、ネクターの譲渡契約を結んでいた人がクロエの住んでいた街へ行き、そこで変わり果てた街を発見、誰か残っていないか探索していたところ、気を失っているクロエを発見し麓の街まで運んできたらしい。
　その人の話では、他に住人は見当たらなかったそうだ。
　街には戦いの爪痕が残っていたが、生物の痕跡は死体を含めなくなっていたという。

　だが、街の住人全員が一夜にして痕跡を消したのは不可解な話だ。
「両親や先輩、街の人たちも、どこかで生きているのではないか？」
　そんな淡い希望を控えめな胸に抱きつつ、クロエは『一揆参加者募集！』という広告を見て、一揆への参加と街の人たちの探索を決意するのであった。


　こうして、格闘系女子ことクロエの冒険は、ひっそりと始まったのだった……

貴方が市街地を出て直ぐの場所で声をかけられた。

声をかけてきたのはそこらの街娘と変わらないほどの地味な姿をした女だった。
彼女は懐から一枚の紙を取り出す。古びたそれは「手配書」にも似ていることが解る。

宝石を多数身につけた金髪で水色の服の少女が挨拶をしている。
……目線の先はアクセサリのようではあるが。

背の高い雑草の端にスズメがとまっている。

雑草が揺れたため慌てているようだ。
やがて見られている事に気が付くと少し首をかしげ、いきなり脳内に語りかけてきた。

どうやら、人が沢山集まっているので、お祭りだと思っているらしい。

辺りをきょろきょろと見回す少女が君のほうに駆け寄り、話しかけてくる。

名乗り忘れたことに気付いたのか、少女はさらに付け加える。