木々の切れ間から射し込む、あたたかな日差し。
　鳥が舞い、獣が駆け回る自然の営み。
　円環の内を果てなく繰り返す、おだやかな時間の中。
　『それ』はただ、ずっとそこに在った。

——・——・——・——・——

　吐き気を催すような色合いの蔓が、視界を確保する。。山道沿いの野営地点から離れて約２時間が経過。人が通った形跡などもうどこにも見当たらない、完全な獣道だ。
　此処は異世界。植生や星読みなどの知識を道標にすることはできない。その上、食料も残り僅かだ。脇道にそれるなど、自殺行為にも等しい。誰に問い返すまでもなく分かりきっていることだった。
　全ては、あの夢。
　あの夢のせいで、俺は歩みを止められずにいる。



　『それ』を気にするものは、何もなかった。
　動物にとっても、鳥にとっても、草や木よりも昔から『それ』は居たから。
　恵みを降り注ぐ太陽と。夜を照らす月と。
　『それ』は全く同じ存在だったから。
　その筈、だったのに。



「……ッ」

　視界が、歪む。
　意識まで途切れ途切れになり、身体がばらばらに砕けていく。
　繋ぎ止めようと手を伸ばした先に——乾いた、硬い感触。
頭痛が、消えた。


今までとは、まったく違う生き物が現れた。
彼らは『それ』の前に座り込むと、赤い花を置いてきゅっと目と口を閉じた。
あるものは、ぼそぼそと、何事かを呟いていた。
とても、とても苦しそうに。


「……。そうか」



身体じゃない、どこかが痛くて、それを何とかしたくて。でも出来なくて。
それでもただひたすらに、明日をおもうことを。


「お前、だったのか」



『祈り』。
　 そうよぶのだと『それ』が知ったのは、それからまた、しばらく後のこと