「なんや用ですかい、姐さん」

襖を開け、膝行の動作で呼ばれた部屋へと入る。
そこにおるんは、師匠であり命の恩人でもある姐さん。
この姐さんには多大な借金をしとるから、どうあっても頭があがらん。
まぁ、命より高いもんはないっちゅうことやけど。

姐さんがこちらに気づいたようで、ゆっくりと振り向く。
その姿は古き良き大和撫子……というやつらしい。
大和撫子っちゅうのがよくわからんからなんとも言えへんけど、もし姐さんが本当にそうだとしたら、その大和撫子ちゅうのはとんでもない暴りょ——

顔の横を何かが通り過ぎた。

ついで、頬の横から生暖かいものが垂れてることに気づいた。
後ろには見事な業物の短刀が突き刺さっとった。

「あんた、もう一度ぐらい死んで見たいの？」

にっこりと微笑むその笑顔は、般若とやらも真っ青な笑みやった。






「はぁ……一揆、ですか」

呼ばれた理由はこうやった。

『異世界のふにゃふにゃっていうところで反乱というか一揆が起きてるからちょっとそれを体験してきなさい』

一揆と反乱の違いがようわからんワシを置いてけぼりに説明は続いた。

「こういうことは私がやるべきなんだけどねー。正直私も今忙しいし、かといって無視するとちょっとなーって感じなのよね」

「はぁ。まぁ、わかりましたけど。なんでワシなんです」

「あんた以外手駒がいないからよ」

単純な解答だった。

「昔は結構手駒いたんだけどねー。そっちは使うわけにいかないから必然的にあんたになったのよ」

「……まぁ、契約上しゃあないですけど」

命を助けられたときに結んだ契約。
手駒となって必要なときはすぐくること。
これのせいでワシは自由やけど、自由やない。
まぁこの契約はもう切れて、新しく結んだ契約で縛られてるんやけど、この契約は自分で望んで結んだしのぉ。

「行くとしても、そこは異世界とか聞いてますが？
ワシみたいな一般人放り込んで殺されませんかね」

そう、ワシはごくごく普通の人間。
目の前にいる化け……人外とはちゃう。
手からビームを放つことも、目から牛乳を飛ばすこともできひん。

「ああ、そこは大丈夫よ。一匹だけだけど、優秀な護衛つけてあげるわ。おいでー」

手をたたいて何かを呼ぶ動作。
開いてた襖から入ってきたのは……小さな妖精やった。
どことなく機械っぽい印象を受ける。

「ほら、お互い挨拶」

「あ、あー……。【武之内組】が一柱、姓無く名を隼人と言います。よろしくたのんます」

「……」

こっちをじっとみとる。
……やりにくいのぉ。

「はい、自己紹介も終わったことだし後は若い二人に任せましょうか」

「今のでやったことになっとんの！？」

「はい、じゃあがんばってねー」

手をひらひらさせつつ出てく姐さん。
残されたんは、ワシとこの子。

「……」

「……」

「とりあえず、頼めるか？」

「……（こくり」

意思疎通はできるようやし、平気か？





「あ、そうだ。あんたにこのメモ渡しておくわ」

「メモ、ですかぃ」

丁寧に折られた紙を受け取り、中を覗けばなにやら名前がかいてある。

「そこに書いてある名前たちの人がもしいたら、気をつけると同時に利用してやりなさい」

「……はぁ、あの、こん人等は……？」

「知り合いよ。実力は確かだから、私の名前を出さずにがんばって仲良くなりなさい」

「……」

そこにはずらーっと名前が書かれとる。
なんや、そんなに知り合いがおるんかこのひとは。








「ところで煙草の支給はあるんですかね」

「ないわね」

ファック！！！

そういう少女には敵意が全く感じられず、あなたをしげしげとものめずらしそうに眺めています。