耕して、種を蒔く。

耕して、種を蒔く。
—そもそも、耕す必要性も殆ど無いほどに、土は穿り返されてしまっているのだが。
それでもその上に、既に小さく芽吹く雑草の芽には、自然の生命力と、そして時間の流れを感じざるを得なかった。

深緋が丘と呼ばれたその丘が、ただの裸山となったのは数週間前のこと。

そう言いながら少女は、汗と埃をぬぐい、傍らの妖精へ振り返る。

浮世離れした一人と一匹は、人里を目指す。
紅い絨毯に覆われた丘の姿が戻ってくることを信じて。

不躾に声をかけてきた男が、帽子に遮られた顔を窺うようにちらりとアジュガの顔を見た。

ひょろりと背の高い青年？がアジュガの方をじっと睨みつけている。
上背のある男が矯めつ眇めつといった素振りでガン見してくるのだから、そこそこの威圧感を感じるかもしれない。

そう言いながら青年が距離を詰めてくる。
アジュガの髪を一房手に取り、何をするかと思えばすんすんと鼻を近付け、その馨りを匂おうと。

シュン…と一陣の風が通り抜けたかと思うとまた風が吹き、気がつくと
不思議そうな顔をした少女がアジュガの目の前に浮いていた。

少女は期待を込めた目でアジュガを覗きこんでいる。
もしらしい能力を持っているようなら人手の足りない湯屋の手伝いを
頼もうと思っているようだ。

それはアジュガを見ていました。街中で、足元に黒猫を控えさせ、片手に奇妙な小猫のぬいぐるみを持っていました。
アニマルな周囲の中心人物は大人っぽい様な子供っぽい様な風貌の女性。

「……あ、う……すみません」

まじまじ眺めているのを、あなた様が気付いていてもいなくても構いません。ともかく先行して謝罪を述べるのは早かったのです。

「えと……あなたから…花のような香りがした、ので……ついつられ…て。良い香りだな……と」

クマまでいる始末。見た目あなた様と同年代の少女は何度か謝っていました。

黒服で全身を覆った青年が1人の女性を目で追い掛けている。
そのすぐ傍にいる小柄で色白な少年が青年を訝しげな表情で見つめて言う。

青年は答えず、代わりにそのまま女性の方へと足を運び始めた。
相手がこちらのことをハッキリと視認できるであろう距離まで近付いた後、口を開く。

少年は少々声高にして青年の行動を詫びる。

2人はそれぞれの話題が被らないよう、ゆっくりとしたペースで話していく。

少年のような風貌をした"ソレ"は、無遠慮にそういいながら近づいてくる。