一日目〜一揆の始まり〜

「やれやれ、やっと到着さぁ。」
一人の男が延びをしながら声をあげる。
男の眼前には多くのテントが張られ、商売をしているものや酒を飲んでいるものなど多くの人で賑わいを見せている。
遠目には巨大な城が聳え立っているが、あまりの大きさに遠近感を失いそうになる程だ。敷地内にある森が苔のようにも見える。
「さって、まずはどこに行けば良いのかなっと。」
男は荷を背負い直すと、何かを順番待ちしているような列へと向かっていった。

この男、名を享楽（きょうらく）と言う。
人のように見えるが、実際は化け狸であり人より長くの時を過ごしている狸だ。人の姿に化けて世界を旅してまわっている。
この場所を訪れたのは女の子の声に呼ばれた気がしたから。とか。
以前は別の世界で旅をしていたのだが、「俺を呼んだのが女性だったから」と言う理由だけで世界の壁を飛び越えてきた。
その名の通り、享楽主義な狸なのである。

男・・・享楽は長蛇の列をなしているところまで行くと、その最後尾につけてから前に並んでいる男へ声をかける。
「ちょいと兄さんや。この列は何の列なのかな？」
前にいる男は後ろを振り向くのも億劫とばかりに、指である一点を指しながら答えてくる。
「おめ、あのノボリが見えないのか？一揆に参加するための登録待ちの列さ。」
享楽が男の指した先を見ると、［一揆参加者登録中・現在250人待ち］と書いてあるのが見える。
「ありがと。」
男へそう声をかけると、享楽は踵を返して天幕の下へと移動する。
「もう少し列が短くなったら登録へ行くことにしよう。そうしよう。」

参加するのは決めているのだから、登録前にやることは色々ある。
たとえば宿の確保、周辺の地理把握、軽い情報収集などがそれに当たる。
「まずは宿の確保さぁ。久しぶりに屋根のある下で眠りたいわぁ」
そう呟きながら雑踏の中へと足を踏み入れていく。

こうして、享楽の一揆は何事も無くスタートした。
一揆の理由やこの世界独自の”契約”制度などのことを知るのはもう少しだけ後の話になる。