鴇色の少女が鈴の音を鳴らす——
少女の白いウサギが鈴の音を鳴らす——

彼女が身に着けた白ウサギのアクセが一層映えて——
少女が駆け跳ねるたびに白ウサギの首の鈴の音が鳴り響く——


自分自身をこの世界に刻み込むように——



—————
———
—

小柄な少女の唇から、鈴の鳴るような声が聞こえた。

その言葉に応えるように、今度は穏やかな少年のような声が聞こえる。

メグと呼ばれた少女は傍らに寄り添う白いウサギを見下ろした。

アルと呼ばれた白いウサギは一気にまくし立てて、傍らに立つ少女を見上げた。

艶のある琥珀色のミディアムロングの髪が風に靡き、同じ色の瞳が意志を孕んだ色合いを見せる。
左脇に、赤い宝珠を先端に置いた長い杖を抱え、両掌をサーモンピンクのパーカーのポケットに突っこんでいる。
羽織ったパーカーの内には、藍と白の細いボーダー柄のブラウスが、少女の控え目なボディラインをくっきり際立たせている。
デニム地のショートパンツからは、黒ストッキングで覆われた脚がスラっと伸び、その先をムートンブーツが覆い隠していた。

同年代の平均と比べるとやや小柄な背丈だが、明るく、元気で、天真爛漫な感じが伝わってくる少女だった。
その少女——メグ・アディントンが傍らの使い魔を再び見下ろした。

小さく溜息をついた白いウサギ——アルが、手持ち無沙汰にツイードベストの胸ポケットから懐中時計を取り出した。

この白いウサギは、ルイス・キャロルのあの有名な作品に憧れた少女によって見出され、使い魔として少女と契約した。
次いで人語を理解できる能力与えられ、二足歩行に耐えうる脚力を与えられ、そしてベストと懐中時計と与えられた。
完全にメグに振り回されている感はあるが、しかしそれでもメグに付いてきたのは契約の魔法による制限だけではない。
なんだかんだでアル自身も、この天真爛漫で可憐な少女を認めている部分はあるからなのだ。

……メグ本人の前では絶対に言わないが。

アルは、しばし長針が動くのを眺めたのち、パチンッと閉めてメグに向き直った。

サーモンピンクのパーカーを羽織った少女——メグが、手のひらを額にかざして遠くを見やった。
フードが風に靡いて、デニムのショートパンツに取り付けた白いウサギのアクセサリーの鈴が音を奏でた。

二人、いや、一人と一頭がいるのは、城から少し離れた高台だった。
森を抜けた先に在る視界の開けた場所で、樹々の枝が両脇を覆い、さながら映画の一カットのようにメグの琥珀色の瞳には城の姿が映し出されていた。

目の前に聳え立つ巨大な城——
広大な敷地に造られたそれはまるで要塞のようであり、また、自然に溶け込むように造られているため、群峰のようにも見える。

その姿に圧倒されて一瞬だけ気後れしそうになるが、すぐにメグは眼に力を込める。

メグに倣ってアルも城を見つめた。午前の陽射しは白ウサギの赤い瞳には眩しそうだ。

メグが目線を城の方向に見据えたまま言う。

メグが愛らしい仕草で軽く両腕をきゅっと両脇に引き寄せた。

アルがジトっとした視線を向ける。

少しだけ気まずくなったメグは、明後日の方向に目線を映しつつ、杖先の赤い宝珠を、そのしなやかな指で撫でた。
現実世界では高校生になったばかりの少女も、やはり何歳になっても「女の子」だった。

学校の友達とはイマドキの姿・格好で接していたし、別に苦でもなんでもなく楽しくやっていたが、少しだけ思うところがないわけではなかった。

白いウサギはわざとらしく咳払いをした後、こう続けた。

メグの語尾に若干の怒気が孕んだが、アルはそれをスルー。