【１日目〜知らない世界に〜】

先週の大雨がウソのように晴れ渡った空。

「絶好の出立日和だ」と、ばば様が嬉しそうに笑っています。

旅に出るのは私なのに、変ですよそれ。って言ったら、

「村にとって良いことなら、自分にとっても嬉しいんだよ」ですって。

ちょっと分かるような気もするけど、やっぱりばば様の言うことは難しいです。

父様も、母様も、呆れたように笑っています。私、変なことを言ったでしょうか。

そう言って拗ねる私に、ばば様は、私の首にひとつのお守りをぶら下げました。

若い頃、ばば様が旅に出たときに使ったものだそうです。

そんな大切なものを、と後ろで母様が慌てたように言っています。

「こういうものは使ってこそ、飾ってもしかたない」と、

いたずらっぽく笑うばば様は、昔を思い出してか、きらきらした目をしていました。

ばば様にお礼をいって、私は村から出発します。

私の姿が見えなくなっても、私を気遣う村の皆と、父様の声が、森にこだましていました。

そうして、私の旅は始まりました。



出発してすぐのこと。

いつも遊んでる森ですし、これからのことが楽しみだったんです。

決して気を抜いていたわけでも、危ないことをしていたわけでもないんです。

ただ、先週まで大雨が降っていたことを忘れていただけで。

地面が緩くなっていて、たまたまそれに気がつかなくて。

そこら辺一帯ごと、私の体は滑っていきました。



崖を落ちるように転がりながら、必死で考えます。

この下には川があったはず。

これだけ地面がゆるんでいたわけですし、きっとすごく増水してます。

流れも速く、どこまで続いているのかは知りません。

ああ、これはだめかも。

ばば様、父様、母様。

もしかしたら、私はもう、村に帰れないかもしれません。

そんなことを考えながら、私は意識を手放しました。



目が覚めたとき、私は見慣れない森に倒れていました。

近くに川が流れています。ここまで流された、ということでしょうか。

それにしても、見慣れない植物や動物がいっぱいです。

あ、何か遠くに、大きな建物が見えます。

特に行き先を決めていたわけでもないですし、とりあえずそこまで行ってみましょうか。



大きな建物の前、帽子をかぶった赤髪の女の人——ルリアンナさんに呼び止められます。

よく分からないことを喋り続け、こちらの返答も待たないまま、もう一人の仲間、でしょうか。

大きな男の人——ラルフさんをよびました。

そうして、私には何のことかわからないまま、なぜか手合わせをすることになっています。

村の外の人って、もしかして皆こうなのでしょうか？　だとすると、これからが不安です。