「……それを拾えば私達は仲間だ……ただ、お互い支えあっていこうというだけだよ……何もおかしい事なんてないだろ？誰だって一人では生きていけないのだからね……」

言いながら右手を私達へ差し出した彼女の言葉を素直に納得できるかと言われれば、答えはNOである。
状況を把握するのにそれほど時間を要することはなく、すんなりと自分たちの置かれている状況を理解できたのは彼女の説明があってこそなのだが・・・。

(死体を傍らにそんな事言われても・・・どうしよう・・・)

納得しかねている私に彼が囁いた。

ソイツが言ってる事はなんにも間違っちゃいねぇよ
生きるために奪う、当然だ。
アイツの場合、小銭を奪う為に殺したわけじゃ無さそうだけどな、ハハッ
この世界、どうせお前一人じゃ生きていけないだろ？
"向こうの世界"より自由に出来そうだ・・・オレも協力してやるよ

通称 悪魔さん。
私に憑いている、もとい憑いてしまった妖怪。

彼曰く、私の中は相当居心地が良いそうだ。
時折、私の意識を奪って色々やらかしてくれる人、人？

そんな彼が協力するなんて言葉を吐いたのだからこれは面白い。

生きるために”ソレ”を成さねばならないと言うのなら仕方ない・・・。
納得した、私は納得したんだよ、と自分に言い聞かせ
今や彼とは言えない肉の塊を一瞥し、私は前に進む意思を固めた。


”一揆”
生活に必要不可欠な物を独占した王を民が懲らしめる。
そんな感じらしい、一揆自体は私の居た世界でもあったし似たようなものだろう。

その援軍に引っ張られたわけである、別の世界から。
妖学術の実技授業中に突然意識を失った、悪魔さんの仕業かと思ったら
全然違う景色が広がっていたわけで・・・、色々すごい。

まずは腕試し、という事で
ラルフという大男が手をボキボキならしている、コワイ。
私達は４人で行動する事になったのだが、このテストは個人でやらないといけないらしい。


(実技の授業と考えれば良いのかな？それなら・・・）

悪魔さんの出番だよね。
力、貸してくれる？

・・・いつもは渋るクセに、今回は嫌に素直だな。
割り切ったのならよし。
後で文句垂れるんじゃねぇぞ。
握れ、テメェの得物を・・・オレが・・・


「殺してあげるッ！」

直後、私の体は跳ねるように標的へ向かった。

協力してくれると言ったのはこういう事か・・・。
普段なら完全に私の意識を奪うクセに、今回に至っては私自身の意識も混じっている。

（いやだなぁ・・・、感触が伝わってくるって事でしょ？うわぁ・・・）

オイ！何を今更躊躇してやがる。
テメェが及び腰じゃうまく動けねぇだろうが！
目の前の事だけ考えろ、生きるんだろ、この世界で！

上手く乗せられている気がする、でも仕方ないよね。
仕方ないのかなぁ・・・？

初めて、自分が戦っているのを体感する。
悪魔さんが動かす私の体は軽く、とても気持ちの良いものだった。
ナイフを握る感触も、肌を掠める拳も気分を高揚させる。
流れてくる猟奇的な感情を抑えきれない。

殺してもいいの・・・？
殺しちゃうよ？ヤッっちゃうよ？

ほらぁ、ちゃんと避けないと刺さっちゃうよォォ？


「アッハハッ」

どのくらいたっただろうか、大男は全力では戦っていないようだった
ツマラナイ、詰まらないなぁ・・・。
悪魔さんも楽しんでるようで、致命傷を与えようとしてない。
ちょっと無理やり私が動かしてみようかな？

ナイフを持つ手に力を込め、大男の胸に突き立てようと思ったが
悪魔さんは簡単に主導権を渡してはくれなかった。

(ぐっ、コイツ・・・
本当に殺しちまう前に終わらせるか・・・
ここでこの大男をヤッもいいが後々困るだろ、色々・・・
オレって紳士的ィ！

って事だからテメェはちょっと黙ってろ・・・！)

あ〜、もう終わりかぁ・・・。
殺したかったぁ・・・。

アッハハッ

━━━そこで私の意識は完全に途切れた。