「……ん」



眼を開けるとそこは緑とか茶色とか。



「…林、いや人工的では無さそうだし森？」


木に囲まれた森の少し高くなった丘の上、
その中でも一番大きな樹の、根と根の間にすっぽりと挟まるように彼女はいた。


どうやら彼女はこの大きな樹に靠れて寝ていたらしい。
その木は見たことの無い樹だったけれど長い年月をかけて育ったことがすぐに見て分かる立派な幹だ。


「よしっ」


足に力を入れて立ち上がる。
長時間寝ていたせいか少し体全体がきしむ感じがした。


「ん〜〜〜〜〜！！！」


背伸びをすると自然にあくびが出そうになるこの現象は何なんだろう、
なんてことを考えながら彼女は自身の体を見直してみる。

彼女は胸に手を当てて目を閉じる。





　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ああ、やっぱり夢じゃなかったんだ

どうやらここは”ハク”の言っていた通り自分のいた世界では無いらしい。


まず彼女の住んでいた町にこんな森は無かったし、森の中からでも見えるあの遠くに見える城。
あの城の近くに比較するものが無いため何とも言えないが、あれはどのくらいの大きさなんだろうか。


現実味の無い現状だったが、彼女は割と冷静に事を考えていた。
体の感覚は多分本物……本物じゃなかったとしても彼女自身はそれを本物だと判断した。
”胡蝶の夢”のような話だが人は案外そんなことを自然に考えるものなのだろう。


彼女が特別だということは多分無い。

先のことはちょっと怪しいけれど当面の目的ははっきりしてる。
まずはこの世界のことを知らなければならないし、人は生きていく上で食べ物が無いと死んでしまうのだ。
それは少し人間じゃなくなってしまった彼女だって同じである。


つまり街を目指すということだ。





　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　———とくんっ

そうして彼女は少し急かされるように歩き始めた。




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彼女はまるで上京してきた田舎者のようにあたりを興味興味深そうに見回してる。

彼女が眼覚めた場所からこの街まで距離にして数時間。
森から出て遠くに街が見えたとき、
目測では１時間程度かと思われたが街の大きさで遠近感がくるっていたのか、到着までには予想より遥かに時間がかかってしまった。


そんな距離を黙々と歩き続け日が落ちる前に着くことができたのは、
十分に睡眠をとったからか別の要因からか…、
単に人がたくさん集まる場所に対する興味が彼女の足取りを軽くしてくれたのかもしれない。


なんにせよ、第１の目的は達することができた。

この国では現在独裁体制を敷く王に対して一揆を行う活動が盛んらしい。


そもそもこの世界では[エンブリオ]と呼ばれる生命体の力を借りて人々が発展し、
そして[エンブリオ]との契約には<ネクター>と呼ばれる花が必要だという。

、
その<ネクター>を王が独占したことに反感を持った国民達が立ち上がり、各地で一揆が行われるようになったという話だった。


そしてこの街は一揆参加者の拠点のような役割を持っているらしく、
辺りを見回せば腕に覚えのありそうな、武器を携えた人が結構いる。

彼女は目的を持ってこの街に訪れ、そして目的を達するための手段を探していた。
そのうちの一つが<ネクター>を手に入れることだった。


そのネクターを参加すればいただけるのであればありがたい話である。
そもそも他の入手法に彼女は心当たりがないのだから。


とりあえず一揆というものを調べることを、と彼女は当面の目的に設定することにした。

口には出してみたが現実的ではないと思う。
彼女のような若い一介の学生に力を貸してくれるような人は、裏があるかよほどの馬鹿だろう。


当面は一人でなんとかするしかないかなーなんて考えていると

彼女が考え事をしながら街を散策しているうちに太陽（この世界でも太陽というかは不明だが）はいつの間にか大分低い位置まで来ており、あと１時間もあれば夜になりそうだ。