はるか遠方に城影を望む丘の上を風が疾る。
その丘の上に幾つもの人影——っつーか、まあその一つはオレなんだが——が1人の女に連れられ、大男の前へとやってきた。
ルリアンナと名乗るこの姉ちゃんは大勢の人間の協力を得てこの国の王様に対して『一揆』…どうやら暴動を起こしているらしい。
この国の人間は昔からエンブリオっつー生き物の力を借りながら生活をしているんだが、その力を借りる為に必要なネクターっつー花を最近変わった新しい王様が独り占めしちまったんだと。
まあそんな訳でエンブリオの力がなけりゃみんな困るから、他所の国や世界に助けを求めてこう言う大事にまでなったって話だ。
好んで他所のゴタゴタに巻き込まれるやつなんてそうそういる訳ないと思うんだが、まあ今姉ちゃんに連れられてる人の数をみる限りは問題ごとに好んで頭突っ込む野次馬や正義感の強いヤツって言うのは多いんだな。
オレの場合は違うけどな。うん、単にうっかり返事しちまっただけだ、反射てやつだな。ただでさえ面倒ごとに巻き込まれて苦労している真っ最中だったんだから。
元々オレは別の世界でババアと二人暮らししてたんだけどよ、何を間違えたのかセルフォリーフっつーへんちくりんな世界に迷い込んじまってそこから元の世界へ帰るための方法を探していた所だったんだ。全く迷惑な話だろ。
本当ならこんなのほったらかしにして元の目的を果たしたいんだけど、たとえうっかりだって言っても引き受けちまったし、この世界のやつで困ってるヤツらも実際見ちまったから、なんつーかこのままほったらかしにするのも寝覚めが悪ぃじゃん？すっげ面倒くせェケドさ。
ま、そんな訳でちょっとだけ手伝ってやるつもりでここまで着た訳だ。

目の前には片目に傷を負ったガタイの良いおっさんが立っている。ルリアンナの姉ちゃんに呼ばれて現れたのはラルフと言うらしい。
見るからに身体を鍛えていて強そうなおっさんだと思う。
どうやらこのおっさんとひと勝負して呼んで来た助っ人が使えるかどうか試すつもりのようだ。
こんなおっさんにオレみたいな仔供を闘わせようとか頭おかしい気がするんだが、セルフォリーフに迷い込んでから使えるようになった符の力と言霊を使えば何とかなってくれる……かな？
ま、あんま信用できねーけど。

そうしてオレは符を手にし、おっさんへと構えを取った——