「緊急連絡です！」

ここは宇宙空間のどこかしら。
何かにつけて、≪緊急≫という言葉がつく。そんな世界にシフォンはいた。
別にいつも通りに、なんとなく、ふらっと遊びに来ただけ。
いつもどおり、能力の制限を受けつつ。やはりＭの気があるのではないだろうか。
どの世界にもいる≪敵≫という総称のものを処理しつつ、シフォンはいろいろな世界を渡り歩き、
運命線の調整をし、あるいは管理をする。

「お疲れ様でした。追跡調査の必要はありません。」

この世界の、ちょっとした黒いところの一つなのだろう。一連の緊急事態と呼称される事象を片付けたら
そんな通信が流れてきた。

ちょっとした空間の裂けめをつくるようにして出てくる彼ら。≪敵≫の一種。
その空間の裂けめが、いまだ少し開いているおに気が付いたシフォンは、
興味本位に・・・本来、彼女らの世界ではほとんどが持ち合わせていない、その感情で
シフォンは少し覗き込む。


・・・・・・。

見たことがある世界。いや、見たことはないだろうが、多くの世界を渡り歩いたシフォンにとっては、
どこかしらで見たことのある世界と合致する。
何より、空気。マナ、とでもいうか、そのパターン。これは知っている。
だが、認知する。初めての世界。この世界には来たことはない。
ただ、パターンが似ているだけ。城があり、文明レベル的には、今いた世界とは違うことは明らかだ。

「また」やってしまった・・・そんな表情をうかべつつ眉を「は」の字にひそめ、シフォンは泣きそうになった。
悪い癖・・・シフォンの世界では、だ。もっとも、彼女の世界としては、その「感情」とやらは希少であり、
彼女のようなイレギュラーを必要としているため、ある意味正しいのだが、
それは公にはされていないし、彼女自身もその自覚はない。
また、お小言をいわれるのだろうなあ、とシフォンは自身の失態にうんざりしているところだ。


すぐさま、通信がはいる。先ほどとは違った世界の・・・そう、彼女自身の世界からの。

少々厳しい顔つきの、少女がシフォンを叱るように、いや、半ばあきらめたように、そういった。
シフォンの面倒を見ている少女だ。とはいっても、実際は姉妹のような関係であり、
さらに、シフォンのほうが姉に相当し、階級も上のはずだが、実際はそんな様相を垣間見るときは、
いたってシフォンが「まじめ」であるときだけである。そしてここ長い間、そんなことはなかったので、
シフォンの世界の連中も、新しいヤツらは知る由もない。

無表情なまま、回線がきれる。

少し、つかれたように胸をなでおろすシフォン。
あたりを見回す。
そこそこに自然の多い世界。さきほどまでいた、世界とは違う。
シフォンは森にそって歩き出す。

ルールブックとよんでいるのは、その世界のルールを記したものだ。
いろいろな世界を渡り歩くのにおいて、シフォンたちが必要としているものをまとめたもの。
その世界の最低限のルール。法律に始まるものが記されている場合や、たとえば目的、現状からの動き。
その他もろもろが記されている。
それを胸のたかさでうかせながら、自動でぱらぱらとめくっていく。

どうやら面倒らしい。

・・・前の世界の印象がまだのこっているらしい。

あまりヘンなものは持ち込めない。ある程度文明に応じたものを使う必要がある場合がある。
手に持っていた武器（？）・・・ハート型のステッキのようなものの形をかえながら、ルールブックをぱらぱらめくる。
魔法の概念があるようなので、無茶しない限り大丈夫そうだ。

刀のようなわかりやすいものから、どうつかうのかすらわからないようななにかまるっぽい物体とかに変えたりしながら、
トランペットにしてみたり、新体操でつかいそうなリボンにかえてみたりしたり・・・そんなときに急に声をかけられる。

びくんっと背筋をのばして、硬直する。手にはリボン。

固着化してしまった・・・らしい。
ふりかえるとなにやら筋肉なおっさんがいた。ヤル気満々の。
・・・リボンで戦うはめになりそうだ。