「おはよう、ロベリィちゃん」
「おはよー、おばちゃん！お洗濯ご苦労様！」
「今日も元気だね！」
「うん！元気だけが取り柄だもん！」
「お仕事頑張ってな！」
「はうんっ！頭なでなでしないでーっ！」

　活気溢れる朝の城下町の中を、一人の少女が軽やかに歩く。
　過ぎ行く人々から頻繁に声をかけられ、彼女は律儀に、元気よくそれに答えていた。大げさすぎるほどにぶんぶんと手を振ったり、頬を膨らませてぷんぷん怒る仕草は、様子を伺う者全てに笑顔をもたらした。

　彼女の名前はロベリア。少し前からこの地に留まり生活している17歳の少女。
　この地での生活はわずかだが、彼女は既に街の住人から愛されていた。
　人見知りをせず、明るく元気で表情豊か、年齢より幼く可愛らしい容姿は、人々の心を穏やかにし、生きる活力を与える。
　人々は口を揃えて「お花畑が歩いているかのようだ」と彼女を称した。

「お仕事終わったらウチに寄っといでよ。新しいメニューのいちご、サービスするからさ」
「ホント！？うれしーなー！ありがとー！」
「ねーちゃんねーちゃん！きょうはどんなしごとするのー？」
「う〜ん、まだちょっと公には言えないよー……あ、こら！武器触っちゃダメだよ！」

　街の住人との挨拶を交わし、やがて門を抜け街の外に辿り着いた彼女は、軽くため息をついた。
「う〜ん、やっぱり剥き出しは危ないよねぇ。でも鞘用意するのも大変だし……む〜」
　彼女は顎に手を添え体を左右に揺らしながら、ホルダーにぶら下げた剥き出しの二つの刃について頭を悩ませた。
　この双刃は元々二刀流を想定した対のものではなく、形状も用途も違う別々の武器であり、しかも幅広で特殊な形をしているので鞘が用意されていない。
　仕方なく肩から下げたバックルに適当な金具で固定している有様である。街中をぶらつく時は危険ではあるのだが、自分の命を預ける大事なものなので、宿に置いていく訳にもいかず、変に鞘に収めて抜刀に不便になるのも困る。

　左右で形が全く違う双刃。愛くるしい彼女の人物像とは無縁のように思えるその武器は、彼女の仕事道具であった。これを使用して、彼女は害をなす獣やモンスターの狩猟を中心に仕事の依頼を受けて生計を立てていた。
　長さはそれほどでもないが、刃が幅広である事と、小柄なロベリアが持っている事で非常に巨大に見える。
　とてもロベリアのような華奢な少女が扱う武器には見えず、最初は皆保護者の荷物持ちのお手伝いだと勘違いしていたが、ある日の木の伐採の仕事において見事その細腕で木を次々になぎ倒し、大の男共の度肝を抜いた。

　彼女はれっきとした戦士。そして今日から従事する仕事も、やはりこの双刃をもってして遂行するものだった。
　一揆。
　どうやらこの国の住人は、新しい王の、生活を脅かす政策に不満を募らせていたらしい。その積もりに積もった不満は、とうとう今日の一揆という形で爆発することとなる。
　ロベリアにとっては関係の無い国の騒動ではあるが、一揆側もかなりなりふり構わない人員募集をしているようで、普段仕事を紹介して貰っている人から是非にと依頼を回された。
　このような大規模な集団で戦う事はあまり経験は無く、また性にもあっていなかったが、街の人々によくして貰っている恩もある為、引き受けるに至った。

　考えているうちに、遠くに自然に囲まれた大きな建造物が見えた。あれが国民の反感を買う王の城。此度の一揆の襲撃先。
「ん〜……とりあえず街の中では布でぐるぐる巻きにしよっかな」
　ひとまずの解決策を見出した後、ロベリアは思考を切り替えた。
「ネクターをいっぱい集める悪い王様、かぁ……」
　先ほどとは別の考え事。しかし今度は大げさな考えるポーズをとることは無い。足取りもいつの間にか、幼さを感じさせる身振りは無く、落ち着いた一冒険者のものに変わっていた。
（もしかしたら、集めてるのはネクターだけじゃないかもだしね）
　街の人の為でもあるが、彼女にはもう一つ、この一揆に参加する理由があった。それは彼女が旅をする理由でもある。

　そろそろ伝えられた集合場所に辿り着く。どうやらその場で適性検査のようなものがあるらしい。
「よーしっ、がんばろぉー！」
　ほんの少しの間見せた落ち着いた雰囲気はまたもや元の明るいものに切り替わり、大きくガッツポーズを取る。
　彼女は軽やかに走り出す。この、様々な思惑が渦巻く大規模な一揆の中で、今度こそ自分が望んだ未来に辿り着く事を期待して——。