「こんにちは」

檻の中、暗がりに向かって少女が話しかける。

『ほう、懐かしい顔だな』

暗がりの中に溶け込んだ巨大な影から声が響く。

『何年振りだ？　ここにいると時間の感覚が曖昧になってな』

「10年振りくらいですかね。あの時わたしは小学生でしたから」

『ふん。それで？　昔を懐かしむためにここに来た訳ではないように見えるが？』

暗がりの中、金色の眼光が鋭く光る。

「ええ、まあ。あなたを頼れば、この場所からいなくなれるかと思ったので」

その眼を真っ向から見つめたまま、怖気づいた様子もなく答える。

『……変わったな、お前は。前に会った時は、総てに希望を持っているような顔をしていたというのに。今は総てに絶望しているように見える』

「無駄口を叩きに来たわけではないですよ？」

苛立ったような口調で言い、残された片目が影を睨み付ける。

『ふん、まあいいか。ここにもそろそろ飽きてきたことだしな。お前の望みを聞いてやってもいい』

そう言って、暗がりの中で影が立ち上がる。

「あら、もっと渋るかと思っていましたけど」

『只とは言っていないぞ。お前の望みはここからいなくなることだろう？　幸いお前には才能もあるようだしな』

『少し手伝ってもらうぞ』

影が牙を見せ、獰猛に笑う。

「何させる気ですか？」

少し不安そうな声が問う。

『他の世界で野暮用ができたのでな。お前の身体を借りることにする』

「なんかいやらしいですね」

『……説明するのもめんどくさくなった。さっさと行くぞ』

言い終わらないうちに、霧のようになった影が少女を包み込む。

「え、ちょっと待っ」

声が途中で掻き消え、影が消えた後には少女の姿もない。

こうして、少女は『そこ』からいなくなった。