ふぁ……ぁ〜あ……


　目を覚まして身体を伸ばしながら大欠伸をしてみれば、周りにはそこそこに茂った木々と伸び放題の草花達が見える。座り込んだ膝の下にあるのは柔らかなベッドではなく硬く冷たい土とその上を塞ぐ草葉や蔓の群れだった。
　身体は痛いが頭上からは木漏れ日が降って、小さな鳥達が囀る声も聞こえるのが気持ちいい。それにこういうのは慣れっこだ。


　　　またやっちゃったっスね〜


　野山を歩き回っている最中に時間を忘れれば、ゆあにはよくあることだ。野生の獣への恐怖心が足りないのだが、不思議と命の危険にあったことはない。しかし今日は起きたら鳥の糞まみれになっていたわけでも虫まみれの目覚めでもないだけ快適な目覚めと言えるだろう。
　一つ、彼女が愛するエンブリオ達が周りにいないことを除けば……。


　　　…………


　ただ一体手元に残ったエンブリオを、昨夜抱きしめて寝た虫籠の透明なケースごしに眺める。どう見ても芋虫だが、ゆあはそれを慈しみ愛する目線で見守っていた。見ていると色がゆるゆると変わっていくその芋虫は、掠れるような小さな声でキィキィと鳴いているように聞こえる。
　その一体、このか弱い生命だけなのだ。やはりネクターが無ければエンブリオを手に入れるのは難しい。昨日まで野山を駆け巡ってエンブリオを捕まえようとした、それが結論である。


　　　やっぱ行くしかないっスかね、あそこに


　身体を起こして草を掻き分け、木々の隙間から遠景を見ると、聳え立つ王城が在った。そしてまた、耳を澄ませば人の集まった騒々しさが聞こえてくる。炊き出しの煙、鬨の声を発する寸前のような意気軒昂の充満した空気。そういったものが集まっている場所がある。
　行かなければいけない。自分の為に、参加するのだ。一揆に。















　　　…………



　　　……でもな〜〜　ゆあは何の役にも立たないっスからねぇ……ごはんでも作って食べてもらうくらいっス……



　決意も何もない呆けた表情で考えていると、腹の虫が盛大に鳴った。
　よし、とりあえず何をするにしてもご飯を食べてからにしようと、ゆあは決めたのだった。

40cmほどの大きさの人形がゆっくりと二足歩行で近づいてくる。

スカートの裾をつまみ一礼。

首を傾げた人形が急に宙へと持ち上げられる。
つまみ上げたのは、身長は170前後、青髪の耳長。