「あれ……五重塔の下に居たと思ったが、なして……？」


　俺は着ぐるみの頭を取って、眼前に広がる景色に目を疑った。
　幾ら暑くて朦朧としても、これは酷い幻覚だろ……。

　クソ暑い中、バイトで多摩のご当地キャラ『だんだらクン』の着ぐるみを着て、観光客と写真撮影した後、楽屋裏にさせてもらってる五重塔下の隅に戻ってきた……と思ったが。


　俺の目と頭が悪くなっていなければ、これは大学の友人でオタクの哲がよく見るアニメの世界のような光景だ。
　やたらおっぱいがデカい小動物の耳つけた子や、アニメの中からそのまま出て来ました！っていうような子まで居る。

「……嘘だろ、オイ」


　さっきから「一揆一揆」聞こえるけど、お前ら何するの？
　見ると、人間じゃないのも居る。

　……ああ、そうか。
　ここはコスプレイベントか、漫画イベントの会場か。
　ご当地ゆるキャラ系イベントに気付いたら出てたって訳でもなさそうだ。

　矢張りオタクな姉貴が、大イベント出たさに隣県の神奈川の大学に進学して、その年の夏、盆だというのに、俺をF県の田舎から東京まで呼び出して、俺はゲームの中の武将の格好させられた上に、売り子までさせられた記憶がある。

　姉貴は絵は上手いが、細っこい女か分からないような男二人が表紙の本を売ってたので、どんな本か思わず中身見ようとしたら、

「おめが見ん本じゃねぇが！！」

　って、ブ厚いパンフで顔を横殴りにされて逆らえなかった……。
　姉貴は地元の言い伝えにある、安達ヶ原の鬼婆以上に恐ろしい女だというのを思い出した瞬間だった。

　……って、その時のイベントが、まさにこんな格好したのが多かった気がする。
　半裸のような目のやり場に困る女子が多くて、困った。



「うーん、取り敢えず誰かにここが何の場所か聞いてみるか……」

　意外とこの会場らしき場所は、人が多い。
　この前やった新選組のまつりも人が沢山来たが、アレに引けをとらないくらい多いだろう。

　俺は戸惑いながらも、人を掻き分けて進んだ。