『おい、起きろ。起きろ、ユーリ、おいっ』
「なンだよ、…まだ日も昇りきッてねェじゃねーか、寝かせろ。ロゼだッてまだ寝てんだろーが」
『いや、起きておるようだぞ。さて、問題だ。今日は何の日だ、ユーリ』
「……！あァ、そうか。新しい仕事の日だッたなァ、忘れてたぜ。王国転覆の企てに乗るンだろ？…どこに金の匂いがするのかねェ」
『ロゼッタが動くなら金が動くという事だ。からくりは解らんが、例えば落とした城の財宝の配分を細工する方法でも思いついたんじゃないか？』
「ふーン、まァそれにゃァ興味はねェな…」

体を起こす。
朝の光と空気が適度に目を覚まさせてくれる。

「それよりも、王国製の魔術具だ。あれを解析すりゃァ新しい反転魔法が作れるかもしれねェ。後は茶葉だな、良い地位の奴の城には高級品があるッて噂だ。茶葉はロゼと取り合いになるから、なるべく先に見つける必要があらァな。後は…」

『本は？王立図書館に無い蔵書、禁書などたくさんあるだろう？我も報酬が無ければやってられん。どうにかして元の体に戻る必要がある』

「馬鹿、お前が悪魔になッたら僧侶の免許剥奪じゃねェか。どれだけ俺がごり押しでこの免許手に入れたと思ッてンだ？ギルドの仕事の受注だッてこれが無けりゃァなァ…」

『ふん、こちらの都合を無視した召喚をしたくせによう言うわ。まだ我を呼び出す不心得者がおると思っていたというのに、いざ現世に現れればこのような姿とは…』

ユリアはそれには答えずに、馬車から降りて数歩踏み出す。
見晴らしの良い丘から、遠くに聳え立つ城が見える。

「…契約は契約だ。行くぞ、ダンタリオン。お前がどうであれ、俺はお前の力が必要だ。そして、一人、俺たちの力を必要とするじゃじゃ馬も居る訳だ。いわばお前は二次請けだな。派遣労働同士、仲良くやらなきゃァ」

『誰がそんな言葉に耳を貸すか』

【天使】ダンタリオンは首を振りながらユリアの後をついていく。その先には、一足先に起きていた少女の姿があった。