王城前には数多の人々が集っていた。彼らは一揆に参加する義兵たちである。彼らの多くは、メルンテーゼの住民の要請に応え、王への反乱に参加するために、異世界からメルンテーゼへとやってきた異邦人たちであった。彼らの出身や種族は様々であるものの、魔術や体術など様々な異能に優れ、王への反逆の趨勢を左右しうる戦力として期待されていた。

そのような義兵たちではあるが、これから起る騒乱のことを思って、ピリピリとした緊張感を放ち、陰りのある表情で群峰のごとき王城を見上げていた。義兵たちは知っていた。統治者である王への反逆とは、すなわち、法理の外に自らを置く行為である。古今東西の反乱の歴史が示すように、失敗すれば極刑はまぬがれまい。

されど、彼らは各々の思惑で、あるいは、各々の信念からこの世界へとやってきたのだ。ある義兵曰く、ネクターを独占せんとする王はもはや王道に悖った暴君であり、それに抗う住民たちにこそ義があり、義をみてせざるは勇なきなり、己の命を危険にさらしてでも、義民たちが暴政に虐げられたままにしてはおけぬのだ、と。

その兵（つわもの）どもの集まりに、また１人の男が加わろうとしていた。ギラギラした怪しい瞳の、それでいてどことなく虚ろな三白眼の男が、王城前へとやってきた。すでに集った多くの義兵達には、男は独り歩きながら、虚空を見つめ、ブツブツと独り会話をしているように見えた。

「……王制を廃止して、共和制にしてやろうってことだぜ……」
「……今は民主主義の時代ってやつさ、まあ、俺にはどっちでもいいだがな……」
「……ああ、分かっているさ、危険は承知のうえというやつだぜ……」

男は途切れる事なく独り会話しており、義兵たちは、その男からいわゆる物狂いの類いの異様な雰囲気を感じた。みな関わりあいにはなりたくないとばかりに視線をそらす。男も誰を見る訳でもなく、腕組みしてポーズをとり、ギラギラと意のこもった瞳なのか、虚ろな空っぽな瞳なのか、虚実うつろう視線で王城を見上げていた。そして、独り言を続けていた。

「ああ、変革の前には常に闘争があり、闘争には勝利と敗亡が連なるものだぜ」
「おまえらはよーくご存知のようにな」
「そして、そこには、必ず不幸な人々が出てきてしまう」
「反乱側が負ければ当然処刑されるだろう、ギロチンとかで」
「王の一族も負ければ処刑か幽閉、よくて追放だろう」
「なに？　切腹？　ああ、オチとしては自害とかもありだろうぜ」
「王に年端もいかない娘とかいたら、悲惨な人生を歩むんだろうな、かわいそうに」
「まあ、それは誰しも同じ事だろうし、気にしてちゃあきりがないな」
「それに、いずれにせよ、だ」

男は腕組みしてポーズのまま、怪しい視線を王城のさらにその先の空へと向けた。

「お前らには勝利をくれてやる」
「最後に勝つのは、俺たちだぜ」

その物言いは、一見、心の平衡を失ってしまった危ない人物のものではある。かくのごとき男が一揆の戦力になるものか、と、義兵たちは眉をしかめた。しかし、様々な異能に長けた義兵たちの中には、そうではない別の光景を目の当たりにする者もいた。マナやエーテルといった魔術や呪術的な媒介を知覚することに長けた一部の義兵たちには、男の背後に、オーラたぎる霊体たち、亡霊・怨霊の類いが付き従い、男はその霊体達と会話をしていたことが分かるのだった。

とある義兵は見た。その怨霊たちからは、歴史に名を残した者たちが持つという緑色のオーラが立ち上っている姿を。そして、どこからともなく、霊界からか、霊体からなのか、声が聞こえてきた。

「かくして、怨霊のみなさんと、怨霊拳の伝承者、シュガーレス・ショーガの戦いが始まったのであります」
「そういうナレーションとかいいから」

霊体の姿と声を知覚できるとある義兵は感じていた。今回の一揆には、この男のような一癖も二癖もある来訪者たちが多く加勢している。来訪者達の異能には摩訶不思議で強力なものが多く、そのような増援は一揆の趨勢をとにもかくにも大きく左右するだろう、と。

そして、今回の一揆は、とてもカオスなものになるだろう、とも。