夜とは思えない程に、明るく、照らされた町。
赤く燃え上がる光が、人々を飲み込み、新たな光となっていく。
ある者は逃げ惑い、ある者は祈り、ある者は怒りを撒き散らし、ある者は全てを諦めていた。
誰が敵で誰が味方なのか、何が原因で何が結果なのか。
答えのない混沌に満たされた世界──その終末は近い。

少女は高台からその様子を眺め、笑みを浮かべる。

そして──


------------------------------day 1------------------------------


意識が覚醒する。
この感じ、世界跳躍を行った直後のようだ。
体が重い。記憶も混濁している。己を見失わないように、自己をしっかりイメージする。
何度経験しても世界跳躍後の倦怠感には馴れない。

今回も私の力はイニシャライズされたようだ。今ならそこらの雑魚ともいい勝負だろう。
世界跳躍のたびに自身の力を「その世界での初期値」に設定される制約、それが私の能力の欠点だ。
再びの世界跳躍もある程度力を取り戻さないと行うことができない。

「で、ここは……？」
倦怠感が抜けてきたので改めて周囲を見渡してみる。
どうやら森の中のようだ。木々の合間から、遠くに城らしきものが見える。

「あぁ、あれが王城とかいう奴なのかな……？」
記憶の片隅に知識として存在するこの世界の設定。イニシャライズ時に流れこんできたものだ。
この世界は権力と群衆との争乱の最中らしく、きっとあの城でも戦いが行われているのだろう。

「とりあえずあの城を目指してみよっかな。うん。きっと楽しいことが起きてるよね。」
王城へと向かって歩き出す。

争いに混沌はつきものだ。
この世界には混沌の火種は十分に揃っている。
後は少し火種を大きくしてやれば、勝手に燃え広がるだろう。

「っと、その前に……」
立ち止まって、もう一度辺りを見回してみる。
この世界には、エンブリオとかいう生命体がいて、そいつらと契約することで力を得るらしい。
よくよく見てみると、茂みの中や木陰に見たことのない生命体がちらほらと居る。
手近な奴を一匹捕まえて持ち上げてみる。こいつはドールというエンブリオらしい。

「まぁ、こいつでいいか。どうせオーバーライドさせてもらうしね」
ネクターという花びらを捧げることでこいつと契約するのがセオリーのようだが、そんな物は持っていないし必要ない。
邪神の力を使って無理やりコントロールを奪い、必要な部分を上書きしてやればいい。
他の世界では自分の体の一部に邪神の力を宿して使っていたが、この世界ではエンブリオがその代わりになるだろう。

エンブリオのオーバーライドをしていたら、突然エンブリオが光り出した。
そして、その姿が変わっていく……

無事かどうかは分からないが、エンブリオの獲得に成功した私は、再び王城へと向かって歩き出した。