【ある書物についての解題より】

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　この掌編集の内容は、大きく三つの傾向に分かれている。
　ひとつは神話と空想。国に伝わる伝説を、子供や外来者に伝え聞かせるものである。それらが現在に影響してくるかどうかは作品により異なるが、影響を及ぼす場合、それは一貫して現在を生きる人間の介在で行われている。この国において、神話とは最早そういったものであったことが見受けられる。
　ふたつめは『現在』。すなわち、作品が世に出た時点での、あらゆる出来事である。ひとつめの神話とも、後述するみっつめとも繋がる部分は多いが、国の中の更に小さな日常として完結するものが多い。滅びた国の生活風景に文化的価値を見出せる部分もあるが、すべては滅びを意識しなかった頃の出来事である。
　そして、『大きな事件』をもとにした、あるいはそれから派生する作品。国を越えて広がった大きな戦や、旅人や商人の口から広まった出来事にまつわるもの。それらはいわば『現在の神話』であり、先述したふたつの要素のどちらをも含むものとなっている。

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　本を閉じ、視線を上げる。
　山に溶けたような城塞が、ここからでもよく見える。

　城塞からこちらを見る日が、いつか来るのかもしれない。
　あるいは、そんな日など来ないのかもしれない。