振り下ろされたハンマーが弾かれるように持ち上がり、ふたたび振り下ろされる時を控えて中空に止まる。早贄のように。弾倉が回転する。そこにもまた火薬があり撃たれることを待つ余白がある。引き金には指がかけられている。物理的あるいは政治的なきっかけとともに、指は引かれ、ハンマーは振り下ろされ、弾倉は今一度回転する……つまるところ革命はリボルバーのように回転する。そして個別的にはそれぞれの痛みを伴う炸裂から、けれど間断なくハンマーは振り上げられ次の炸裂を準備する。炸裂する射撃音にまぎれて弾倉の回転する機械的な音がカチリと鳴る。拭いがたい少しの倦怠。こうして回転するもう一度について。もう一度、そしてもう一度、またもう一度について。しかしリボルバーは回転している。政体も回る。そのたびごとに新しく、慣れ合いの希望を引き連れてくる。

周りには喧騒、誰が数えたものか、噂には、二千人。ひとつの王朝が落ちるには少し足りない。しかし大半が別世界からの救援であることを思うなら、あまりにも数多い。銃、剣、鎌、弓、鎖、鋤……戦うために造られたものにせよそうではないにせよ、それぞれに一通りの装備さえある。士気はどうだろうか。あたりを睨む者もある。妙に饒舌に周囲と話す者がある。周囲に距離を保ち自意識の領分を守るたぐいがなにより多いか。書き物をしている者もある。私のように。

文字のある世界は少なくない。本がある世界も、読むことを赦す余暇や技術がある社会も。そうした下部構造に支えられてブルジョワジーや一部の都市労働者の暮らしの庭に咲いた「書く」というこの不自由な習慣は今も私を捕まえている。私は書く、こうして待たなくてはならない時間がある折にはとりわけ。多くは夜の眠る前の、それとも朝の目覚めた後の、つまり私の足が（不幸にも）止まっているあのいくらかの時間に。今は違う。二千人に上るという増援をラルフがひとりひとり検分している。あまりにも長いその試験時間は、少なくとも目につく何人かをとうに飽きさせ始めていた。

かつて訪れたあの世界の名前はなんと言ったか、この元素の世界のように抑圧された民衆たちが、遠く離れた王都のために山野を越えて大移動をなした。大半の者には初めて歩む大距離だった。なんとなれば多くの世界で、王は距離によって、己への到達のしがたさによって、その触れ得なさによって権勢を保っていたのだから。長い距離を歩むために、移動のために……つまりは革命のためにその世界になによりも不足していたのは、大量の靴だった。労働者としての暮らしを遵守する彼らには行軍に適した靴がなかった。そのため王都を目指すことができず、王都の間に広がるほとんど無限にも誓い距離は徴税のため馬で訪れる役人たちが支配していた。あの世界では私はまず革靴の製法を教え込み、八千足の軍靴を準備することから始めねばならなかった……。

目の前で火花のように飛び散る光、それで書くことは中断する。鈍い頭痛が記憶を打ち切る。あの世界の革命はつつがなく王を殺し、そして王に代わる新たな支配者を民衆から選び出すことで終わった。合議制とは名ばかりの君主制によって……君主制に馴らされた人々は多くの場合、自由に耐えられない。そうしたさまはいくらも見てきた。それでも次第に薄らいでいく私の記憶の光景を、類型のひとつとしてカテゴライズすることはあまりに傲慢な整理だろう。あの世界にはあの世界の痛みがあり、怒りがあり、歴史があり党派性があり失着があった。個別性に基づいて思考せねばならない。

新王のなかば自殺的な抑圧政策に革命の機運が高まり、いま、メルンテーゼは鍋の湯のように沸騰している。ヤールやフィガロらと共にこの世界に暮らした二年の停滞が嘘のように、革命は一瀉千里に進むだろう。しかし叛旗は単に生活の糧を掠取する重すぎる税制への怒りに裏打ちされており、王を絶対的な意味において除外するだけの理論的支柱を持たない。一点留意するなら、力により支配する絶対王政を、力によって取り除こうと画策する点で、王の力はこの世界において割に客観化されている。百の力で支配する王の一策に得心いかないのであれば、二百の力で一策を替えさせる。これは算術の問題だ。であるなら、革命の後に王制を保たねばならない理由はない、という理路まではあとわずかの飛躍があればいい。

ああ、しかしその飛躍はあまりにも単純化された革命論だ。そうした形で革命を経験した世界には民主制に辿り着いたものもあり、さらに悪い支配へ先祖返りしたものもある。飛躍は歴史的必然の道筋を切断して新たな道筋を置く。断面は紅茶に入れ損ねたレモンのように乾いたまま忘れられる。個別性に基づいて思考せねばならない。

王城はいまだ遠く、風はぬるい。少しの緊張のあるといえ煮炊きの煙はどうしてものどかな香りだ。平原を、川を、砂漠を抜け、まずは王を目指すことになる。その道筋のはしばしで、この革命の個別性の光を見ることだろう。何によってか？　人間によってだ。人間の瞳の光によって、その語る言葉によって、慾望と理路によって。なんとなれば革命の主体は常に政治的無力を超克する被抑圧者のひとつの意志なのだから。