どこにでもある平凡な世界。


どこにでもある貧乏な一軒家にて。


1人の男が袋を握り締め力強い一歩を踏み出そうとしていた。


月の無い夜のこと。



「俺は……悪徳商人になる！！」






それから数年後。

子供を騙して奴隷にするはずが他の奴隷商人から救ったり、女を手篭めにしようとしたら病気だったので治したら感謝されすぎてやる気無くしたり、貧乏人から金を巻き上げようとしたらライバル悪徳と縄張り争いになり何故か村の救世主として祭りあげたり、果てはエロ本盗んだらいきなり喋って歩き出したりしたが男はめげなかった。

「ワ、ワタシは悪徳商人……そう、ザ・悪徳・グレート、はたまた悪の越後屋、表向きは善意の商人……そう、あくまで表向きの仮面なのだ。ヒヒ、ヒヒヒ」


「番頭さーん、これお願いしますね」
「あ、私もお願いします」
「番頭さんに任せれば何とかなるから頼もしいわぁ」
「人柄もいいしねぇ。それに比べ当の5代目ときたら……ヒソヒソ」


中堅商会で性格のいい腕利き番頭として収まっている男の姿がそこにあった。


「ノーッ！！　こ、これは何かの間違いなのデス！！」


なんて叫ぶわけにもいかず、内心悶々としかし着実に仕事をこなしてゆく。


そんなある日のこと。
別の世界サッカーイから来た行商人がぽろりと呟いた。

「ここはホンマ平和でええですな。先日までおったメンテルーゼなんかえらいことなってましたわ」

「ほほう……詳しく」

「へぇ。何でも、新王とかいうお偉いさんがネクターなる資源独占を始めた、っちゅうことで。それに反感もった農民がカマやクワもって一揆起こしたらしいですわ」

「一揆ですと……！」

男の心が震えた。一揆。IKKI。それは暴力の嵐。混乱の中、数多の敵を蹴落として成り上がる道。
農民娘は少々逞しそうだが問題ない。

「一応新王側が鎮圧に動いたらしいんですけど、農民側も増援募ってるちゅう話でっせ。あ、これがチラシですわ」


商人が取り出した紙。派手な色彩でゴチャゴチャデザイン。
言葉は単純な一文のみであった。


『君もネクターでカワイイコと友達になろう！』


「おｋワタクシ農民になってきマス」

「へ？」

ごほごほ。咳払いで誤魔化し仕切り直す。

「おっほん。これはまた、興味深い宣伝ですね。参考までに頂いて宜しいでしょうか」

「へぇ、構いませんけど。キーン様には色々お世話になってますよって」

「いえいえ、こちらこそ」


あとの商売人同士のやりとりを手早く済ませると男は即座に自室へ篭る。

「ククク、友達と見せかけ女達を支配してゆく……これぞ悪徳商人というものよ……！」

ぶっちゃけ今の商会じゃ手だせないので我慢の限界であった。イロイロと。



こうして男は煩悩を握り締め一揆の募集に応じるのであった。
立派な悪徳商人へ成り上がることを夢見て。
唯一従える共は歩くエロ本ばかり。




「……なぜ貴様ついてきた」
「エロスあるところに我輩在り、なのである」



「こ、こら、ワタクシのネクター返せ！！！」
「わん、わんっ」



この世界で新たな供が増えたようだが、その話はいつかまた。