ほんの10日前まで、不自由の無い暮らしがあった。
ほんの9日前から、不自由ばかりの暮らしになった。



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この周辺で自分の手に負えて、不味くはなさそうで食べられそうな動物がウサギくらいしかいないのだが
この血は全くおいしいとは思えない。
吸血鬼にとっては違うらしいが、自分には殆ど鉄のような味しかしない。
10年以上は生きている吸血鬼でありながら、殆ど血を飲んだことがないので、相手によって味が違うのかすらわからない。

「肉の方がよっぽど食えるな、不味すぎるわ」

搾り出した血液は諦めて、適当に素手で引きちぎって解体して焼いただけのウサギの肉をかじる。
料理はわからないし調味料も無く、味付けもしていないので味はあまり無いが、血よりはよっぽど口にしやすい。

「これじゃ、殆ど人間の味覚と変わらねぇ……」

自分の吸血鬼らしい部分なんて数える程度しかないが、せめて吸血くらいはしっかり出来るようになりたい。
吸血を続ければ、そのうち吸血鬼に身体が傾いていくのでは、というのも無理がある考えの気がするが
普通にしていては自分は本当に人間と殆ど変わらない。
唯一の特技と言えるコウモリの使役も、ここでは不思議と上手く使えずにほとんど使役できていない。

「ネクター見つけて、エンブリオと契約するしかないか」

分割世界によって世界のルールが違うのは面倒で仕方ない。
面倒で仕方ないが、騒乱に乗じてこの世界を支配する為にもここは耐えるしかない。
吸血鬼らしく吸血を繰り返すことで完全な吸血鬼になって、王になって失った地位も取り戻す。
利用出来るものはなんでも利用するつもりだが、自身の力も無ければ目的は到底果たせない。
焼き過ぎて黒く焦げた肉を齧りながら、これからの道のりを想像してうんざりするが
早めに動かなければ他の奴らに先を越されてしまう。
自分と同じで、この世界を乗っ取ろうとしている連中は確実にいるだろう。

「一回分のネクターくらいは見つかりゃいいんだけどな」

そういえば、傍から見ると独り言を呟いてるようにしか見えないんだろうか。

「俺はもういらねぇから、全部飲んでいいぞ」

そう言ってウサギの血を溜めた小瓶を頭上に放ると、コウモリがそれを空中で掻っ攫った。
この世界で一匹だけ自分に付いて来たコウモリだ。
地面に降りると小さな牙で器用に小瓶のフタを飛ばし、小瓶を倒して中身を舐め始める。

「こんなの一匹だけいても、何の足しにもなんねぇんだよなぁ……」

こちらの言うことは理解しているようなので、愚痴り相手にはなるが
向こうからは何も言ってこないので、話し相手にはならない。
もちろん戦力にもならない。
それでも唯一の使役できているコウモリなので、世界征服の第一歩として手元には置いてある。
だが今はやはり、戦力になるものが欲しい。

「コウモリとエンブリオ以外に何人か必要だな、そっちも探すか」