斜めに差し込む午後の陽光が眩しい。

受け取ったばかりの真新しい革の剣帯に
これも拝領の銀剣を無造作に落とし込んで
彼女は火のない暖炉に歩み寄り、炉棚に置いていた幾つかの品の中から
一枚の硬貨を取り上げた。

伏せた睫毛の下で濃い緑の瞳が揺れたが、それも束の間のことで
硬貨の浮き彫りを親指でなぞって振り返り、寝台とその足元の衣裳櫃に
視線を返す頃には、もとの静かな面持ちに戻っている。

何度経験しても慣れるものではなかった。
身体の芯に澱となってわだかまる疲労と苦痛は
一日、二日で消えるのだと知っていたが、指先の感覚はいまだ戻らず
血の通わぬ彫像のように、白い。

下された命はいつものように曖昧で、今回も長旅の気配が色濃いとみえる。
けれども、行をともにする道連れの姿はなく、
袋一つにまとめた荷は軽かった。

「行こう」と、硬貨に彫られた横顔に声をかけて握り込む。
その瞳に一瞬、雷火の影が踊った。