【初日】

目の前に広がる緑の大地。
吹く風のにおいは、どこか異国情緒をはらんでいる気がする。

「ここが…メルンテーゼ、か」

誰にともなく、つぶやきながら景色を眺める。
異世界自体は初めてじゃないけれど、やっぱり初めての場所はなんだか緊張する。

私の名前は黒瀬そなた。
ごく一般的…かどうかは分からないけれど、一応１４歳の中学２年生の女の子。
勉強も運動も特段苦手というものはないけれど、逆にこれといって取り柄もない。
ただ、私の人生が平凡か、というとむしろ波乱万丈なわけで。
全部を書こうとするとアニメにして４クールを２期分くらいの量になるから、
省略するけれども、一応魔法少女なんてものをやっている。
まぁ、命を対価にしたり、常に歌う必要があったりするわけじゃないけれど。

で、なんで私がメルンテーゼにいるかというと、簡単に言えば世界を元に戻すため。
メルンテーゼじゃなくて、私のいた地球のことだけど。

その異常に最初に気づいたのは、私の親友。
私が魔法少女として戦いつづけて、３度目の夏を迎えたときだった。
ちなみに、私が魔法少女になったのは中学２年生の秋のこと。

ここまで書けば、異常に気づいてもらえると思う。
そう、私たちは都合４回目の中学２年生の夏を迎えていたのだ。

まさに「無限ループって怖くね？」っていうやつ。

ただ、普通の無限ループと違うのは、私たちにはループ前の記憶がきちんとあって、
ループ前の出来事はきちんと経験として残っている点。

普通だったらそこで記憶の混乱を起こしそうなものだけど、不思議なことに、
指摘されるそのときまで、誰も違和感を持っていなかった。

その状況を分かりやすく言い換えると、「サザエさん時空」。
漫画なんかでよくある話だ。
ギャグ漫画なんかで多いけれど、アニメでも伝説の戦士を扱った作品で一度だけあった。
…私、結構あの作品好きなのよね。
いろいろ勉強になるし。

脱線してしまったけれど、私たちはサザエさん時空化した世界を元に戻すため、
調査を開始したというわけだ。

私の使命はメルンテーゼでエンブリオとネクターについて調べること。
一人って言うのは心細いけれどがんばらないとね。

「一人だなんて、フォノンは仲間はずれ？」

声がして、頭の上にずしっとした重みがかかる。
みあげると、ずんぐりとした鳥が頭に乗っかっていて、こちらに冷たい目線を向けている。

「あー。ごめんごめん。フォノンがいるのすっかり忘れてたわ」

この鳥はフォノン。私の契約精霊だ。
音をつかさどる精霊らしい。

訂正。フォノンと私の二人、です。

「分かればいいの。そもそもそなたは私がいないとまだ危なっかしいんだから」

お説教が始まってしまった。
毎度のことなので聞いてる振りをしつつ、適当に流す。

さて、とりあえず、合流する手はずになってる人たちを探さないとね。
私だけ…もとい、私とフォノンだけじゃこの広い世界を調査するなんてできないから、
親友が助っ人を手配してくれているはずなのだ。

どうやって手配したのかは分からないけど。
一から仲間を探すのは一苦労だし、素直に感謝しておこう。
ほんと、あの子は謎が多い。
…まぁ、私が言えた義理じゃないんだろうけれども。

「じゃ、行こうか？」

頭の上で説教を続けるフォノンにそういうと、私は遠くに見える街影へと向かい歩き始めた。


【そなたレポート】
メルンテーゼに無事到着。
体調に異常なし。
シュークリーム食べたい。

「しっかしこのあたりは随分と人が集まってるなぁ…、まさにこれから一揆が始まるって感じだっ」
メルンテーゼにやってきたばかりの一人の男は、多くの人で賑わうその場所をまわっていた。
ルリアンナからは同じ一揆に参加する人間同士、挨拶なり情報交換なりは済ませておいたほうがいいとすすめられていたようである。