メルンテーゼのどこかにある、荒れ果てた灰色の土地。天変地異か、それとも支配者による過剰な搾取の結果か、周囲に生き物の気配はない。
錆びれきった大地の上で目に付くものといえば、朽ちて数十年は経とうという大きな倒木の残骸、枯れた石造りの井戸らしきもの。人工物の痕跡があるのを見るに、ここに以前何者かが住んでいたようだが…。

その井戸のそばに、いつのまにか1人の女性が立っている。
背は高く、銀髪に茶褐色の肌。着ているものは騎士のような、軍服だろうか。
頭には1対の角が生え、両腕の少なくとも肘から先は装甲のようなウロコに覆われた爪。
紅い眼で、じっと井戸を覗き込んでいる。

「やはり水気すらもないか。当然だな、ここまで絞りかすのような大地では。砂漠にならないのが不思議なくらいだ」

顔を上げ、周囲をざっと見渡すが、特に興味を引かれるものはなかったようだ。井戸から離れて数歩、コツコツと靴音を響かせながら歩く。
井戸からも、倒木からも適度に離れた、ある一点。そこにしゃがみこむと爪で円のような図形を描き始める。そうしているうちに、さっきの井戸から真っ黒な宝石のような虫が1匹、這い出てきた。

「リエル様、地表の軽い探査終わりました、やはりまったく枯れた地ではないようです」

キシキシと何かをこすり合わせるような声。女騎士はその報告をなんでもないように聞くと、腰にさげていた奇妙な形の剣を取り出し、おもむろに地面に突き立てる。

「ふうむ、砂漠化しないのはやはり原因があるということか。…ご苦労だった、アズラシャスタ、そのまま下で待機していろ」

アズラシャスタと呼ばれた虫は一礼して再び井戸の底へ戻っていく。
それを横目で見送ると、柄に魔力を込め、剣先を通じて地面に魔力を流し込む。

「さて、どの程度の反応があるか、試してみるか。…我に連なる地の精霊よ　『呼応せよ』」

詠唱に灰色の大地が呼応し、ちょっとした揺れが起きた後、ぽっかり穴が開いた。同時に穴から井戸までの地面に茶色が染み出してくる。

「なるほどな、灰色の地は表層だけ、掘り進めば良質な大地が出てきそうだ。よし、この地に居を構えよう。まずは住まいだな。それと表札も考えるか」

明るい声が響いた。