＊DAYS/000

　王が代替わりして随分と経つ。その間もリントは永い冬へと歩みを止める事は無く、このままでは土地と民の滅びを待つだけだというのは明白だった。
　領主代行の母も、またその補佐である爺も、日に日に憔悴している。私の前でこそ常に厳しく気丈に振舞っていたが、執務を終えて自室へと向かう母の顔には濃い陰が差していた。
　土地が滅びる前に、おそらく母も爺も壊れてしまうだろう。その原因は、この私にある。

　土地憑きのエンブリオが、私にも姉にも心を開かない。その理由は明確には解らないが、彼女は今の私がお気に召さないという事だけは解る。
　不足している物は土地に対する愛着か、民に対する意識なのか、あるいは彼女自身への敬愛なのか。

　そもそも、このように考えている事自体が気に入らないのかもしれないが。

　いずれにせよ、ただ日干しを待つのは領民に対する裏切りに他ならない。
　ネクターを全て召し上げられてしまっては、リントの産業は滅びてしまうだろう。さらに彼女との契約もままならない。
　王に対して、大規模な抗議行動——ある地方では主に対するこういった行為を一揆と呼ぶそうだ——が始まるという。
　姉様に一つ相談をしてみよう。領の代表として、この抗議に参加し、あわよくば王に一発拳を浴びせてやりたい、と。

赤い髪の青年はリューティクの姿を見ると、一旦デリフィーンの方へ視線を移し、また戻す。
相手があまり顔を上げる事なく視線が合う位置まで来ると、その場で一礼した。

それは、リューティクが故郷を発つ時だったろう。

自分より少しだけ背の低い親友に向ける声は、いつもよりも少しだけ弱々しい。

これから戦へ赴こうとしている相手には、無理難題な言葉だったかもしれない。
しかし、少女は幼い子供が駄々をこねるような様子でその言葉を何度も繰り返した。

差し出した小さな革の袋の中には、彼女の姉のものと同じく二又に分かれた鳥の骨が入っている。

その表情はなかなか明るくはならない。
こんな姿を見せている自分が情けないと、少女は小さく肩を落とした。